サンタクロースを考える

サンタクロース。この人の名前はみんな知っていると思うが、子育てをする人たちにとってはどうしても避けては通れない、厄介な人物である。
自分の息子もついに「サンタ」という言葉を覚えて、街中にあるクリスマスツリーを見ると「クリース!」サンタクロースを見つけては「サンタ!」と言うようになってしまった。
もちろんまだクリスマスやサンタクロースがどのようなものかは理解していないとは思うが、何か特別なことであることはわかっているはずだ。

クリスマスは子どもにとっては年に一度の大イベントである。それはもちろん、ケーキを食べたりプレゼントをもらえたりするからだろう。しかし、本来持っていた宗教的な意味合いからは遠く離れてしまった現在、このイベントを子どもにとってどんな意味のあるものにするかは養育者にかかっていると言っても良いだろう。今回はこれから毎年続くであろうサンタとの対峙について考えて行きたい。

そもそもサンタクロースって誰なのだろうか?もちろん自分も本人に会ったわけではないのでわからないが、クリスマスにひたすら子供の欲しいものを用意して無条件に配り歩く、ただ気前のいいおじいさんであるはずはないだろう。
そこでちょっと調べてみると、いろいろな説があることがわかった。
webによると4世紀ごろのキリスト教圏東ローマ帝国の司教、教父聖ニクラウスが起源だということらしい。貧しい家庭に夜中に金貨を放り込んでその家族を救ったという話があるそうで、その後いろいろな国にその逸話と存在が認知されると、各地でそれぞれのサンタクロースがカスタマイズされていくことになる。
クリスマスと言ってもその国や宗教的な考え方によって時期も様式も異なり、なんと南半球のオーストラリアではサンタはソリではなくサーフボードに乗ってやってくるそうだ。これは「サーフィン・U.S.A.」という大ヒット曲で知られるビーチ・ボーイズのメンバーのほとんどがサーフィンに全く縁がなかったことと同じような、驚きの事実である。

というわけで、50歳になってサンタクロースについての基礎知識をぼんやり得たわけだが、そんなことよりもずっと現実的な問題がある。家計を少なからず圧迫するプレゼント問題に加え、子どもにとって遠くない日に必ず来る「サンタはいるのか、いないのか」問題である。

ある程度物心がつくと、子どもたちは「サンタなんていない、実はお父さんだ」とか「いや、サンタは絶対にいるし実際に見たことがある」などと言い始めるわけだが、自分の幼少期を思い出すと、それは年中行事の一環のようなものだった気がする。
自分にとってクリスマスはお正月に親族が集まった時にお年玉がもらえたり、お盆には同様にみんなでお墓参りに行って食事をする、などというのと同じような感覚で、サンタがいるかいないかについてはどっちでもいいと思っていた。今思えばこの頃から自分は少し変わっていたのかもしれない。

しかし、子ども時代から含めて、今年ほどサンタクロースがいてくれたらいいのに、と思った年はなかったかもしれない。なんでもいいから自分にとってありがたいプレゼントをしてくれる人がいたらどんなにうれしいか。それはモノやお金ではなくても、笑顔でも、心のこもった優しい言葉でも構わない。正直、そのくらい厳しい1年だった。今年のクリスマスライブでは制作に関わってくれた仲間、そしてライブ配信を始め、参加して支援してくれたファンの方々がまさに自分にとってのサンタクロースであり、本当に救われる気持ちだった。あらためて感謝の気持ちを伝えたい。

そんなこともあって、50のおっさんにとってもやはりサンタはいてくれた方がうれしい、という結論に達したので、子どもがまだ眠っているクリスマスの朝早く、靴下の形に切り抜いた紙の下にそっとプレゼントを置いた。サンタはいるということになった。
ともあれ、子どもたちがサンタを信じてクリスマスの時期になると急に良い子になり、その行動に見合った高額なプレゼントを要求するというのはどうも何か腑に落ちない。サンタクロースの存在をどう定義したら良いのか、しばし考えた。

そんな折、テレビのニュースで医療機関で働く看護師さんのインタビューを見たことを思い出した。逼迫した状況の中、患者さんから心ない言葉を投げつけられ、心身ともにボロボロで誰のために必死に仕事をしているのかわからない、と話していた。
患者さんの気持ちを考えれば無理もないとは思う。しかし、命がけで医療に従事している方々の気持ちはどうだろうか。そんな人たちにサンタクロースは何かプレゼントをしてはくれないのだろうか。

どんなに素晴らしいことをしてもらっても、どんなに心のこもった言葉をかけてもらっても、それを感じられない人間に幸せはこない。
子どもにはサンタに限らず、誰かに何かをしてもらうためにはまず感謝の気持ちを忘れないこと、そしてそのお返しを誰かにする必要がある、ということを伝えていきたいと思っている。
サンタはいる。しかし、ただプレゼントをくれる気前のいいおじいさんではない。
自分もこれまでもらったたくさんの素晴らしい贈り物を、誰かに返せるようにしたいと思う。

(by 黒沢秀樹)

※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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