どこにも出かけずに過ごしたゴールデンウィークもあっという間に過ぎ去り、緊急事態宣言の延長も続いていますが、今週はお知らせと報告をさせていただきます。
ついに、この連載が電子書籍化されることになりました！
気がつけばもう１年半という時間が過ぎ、１歳半だった息子は３歳になろうとしています。
振り返ると、これほどまでに濃密な時間を過ごした経験は他にはないと思います。あったとすればバンドの活動が一番忙しかった1995年からの２年間くらいでしょうか。
共通していることは「ほとんど記憶がない」ことです。人間というのは限界まで目の前のことに集中すると、他のメモリを全て開放して対応するのかもしれません。断片的に覚えていることはたくさんあるのですが、それがいったいいつ、どこでのことなのかさっぱり思い出せないのです。
そういう意味でもこのノートは自分の育児の記憶、そして子どもと過ごした濃密な時間を記録したとても大切なものになっています。毎週書き散らかしたノートの総量も通りかかった読者が一度に全てを読むのはなかなか大変な量になってきたので、電子書籍化されてアーカイブしてもらえるのはとてもうれしいです。そして何より、このノートが育児中の方、育児を懐かしむ方、そしてこれから育児に向き合う方にとって、少しでも息抜きが出来るようなものになってくれたらと願っています。
スタートするにあたって決めていたことがありました。それは、なるべく「自分個人の視点で書く」ということです。
どういうことかというと、例えばこのノートには自分以外の家族や保育園、幼稚園などの保育施設のことは出てきません。それはなぜかというと、世の中には自分の想像を超える、様々な環境の中で育児をしている方がいると思ったからです。
待機児童問題で保育園や幼稚園に預けることができない家庭、祖父母や他の家族の存在の有無、シングルで育児をしている方や、養育者と子どもが血縁ではないことも珍しくはない時代になりました。それでも変わらないこと、それは養育者の子どもに対する気持ち、そしてそれを反映する子どもの気持ちだと思っています。
自分はミュージシャンで、多くの方々とはかなり違った生活環境の中で育児をしているんだろうと思います。だからこそ、どんな環境にも左右されない養育者の気持ち、そのひとつの形をこのノートに書き留めて置けたらと思っています。
育児はクリエイティブだ、というのがこの連載のテーマでもあります。
長引くコロナの影響で自分たちミュージシャンや音楽ファンにとっては本当に厳しい状況が続いています。そんな中少しでも前向きにできることをと思い、YouTubeやライブ配信などへのチャレンジを始めてみましたが、その発展形としてオンラインでのコミュニティを立ち上げることにしました。考えたのは今までのファンクラブや、最近よく聞くオンラインサロンとはちょっと違うものです。どういう名前をつけたらいいか思いを巡らせていると、浮かんできたのは育児のことでした。
僕はこのコミュニティに「secure base」という名前をつけることにしました。この言葉は育児に関する本を読み漁る中で出会った、アメリカの心理学者エインスワースという人が提唱した「心の安全基地」という概念です。
子どもには発達の過程で「安全基地」の役割を果たす人間の存在が不可欠であり、その基地を拠点として冒険や帰還を繰り返すことで成長し、強く生きていくことが出来るという考え方です。
今、子どもだけではなく、自分たち大人にとってこそ「心の安全基地」が必要なのではないか。そう考えました。この連載の電子書籍化に合わせて、この基地もスタートさせようと思っています。
育児がクリエイティブに繋がる、というのはこういうことなんじゃないか、と自分は考えています。
そして育児は今日も休みなく続きます。息子に空前のダンゴムシブームが訪れ、散歩はダンゴムシを探す旅になっています。見つけるとしばらく見つめたりつついたりした挙句、今日はついに指に乗せました。家に帰るとその思い出に浸っています。子どもはどうしてあんなにダンゴムシが好きなんでしょうか。
（by 黒沢秀樹）