子どもの記憶、大人の記憶。

いよいよこの連載が電子書籍化されて発売されました!

『できれば楽しく育てたい ミュージシャンのクリエイティブ育児ノート』

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・おおくぼひでたか

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いわゆる育児書とは全然違うことは読者のみなさんはご存知かと思いますが、今月は息子の3歳の誕生月、プレゼントのつもりで購入してもらえるとうれしいです。ついでにレビューなども是非書き込んでください。おおくぼひでたかさんのイラストもいい感じです。

そしてこれを機に、この連載も毎週更新から隔週更新に変更することにしました。
理由は、育児をしながらこのボリュームの原稿を毎週書くのが難しくなったからです。
作曲家の成瀬英樹さんと「walls & bridges」という企画を立ち上げ、その流れで今年に入ってからはYouTubeチャンネルの開設、クラウドファンディングへのチャレンジ、ライブのインターネット配信などに加え、ファンと一緒に作る心の安全基地「secure base」もスタートしました。

この連載にも書いている通り、育児は非常に手のかかるクリエイティブな作業であり、そこに休日はありません。日々成長する子どもの記録は続けていこうと思いますが、どう考えてもやりたいことの全てをこなすには時間が足りません。楽しみにしてくれている読者の皆さんには申し訳ないですが、育児も含めた僕の日常は「secure base」でも日々更新して行こうと思っています。
ちなみにこの「secure base」という言葉も育児をする中で出会った言葉で、この連載がなければ知ることはなかったはずです。
これはアメリカの心理学者エインスワースが提唱した「心の安全基地」という概念で、子どもには発達の過程で「安全基地」の役割を果たす人間の存在が不可欠であり、その基地を拠点として冒険や帰還を繰り返すことで成長し、強く生きていくことが出来るという考え方です。
今、厳しい状況の中にいるアーティストやファン、そして育児中の大人にとっても「心の安全基地」が必要なのではないかと思っています。メンバー登録は無料なので、どうぞよろしくお願いします。

ソウルミックスは、アーティストとファンを繋ぐコミュニティサイトです。コロナ禍でライブ活動がしにくくなったアーティストを応援したい!できたてホヤホヤの新曲をファンに届けたい!それぞれの想いを繋ぐ架け橋となるようなサイトを目指しています。

さて、今週は記憶について。

子どもの記憶、大人の記憶

最近息子の記憶がかなり長いスパンで残るようになってきた。子どもはその一瞬を生きていると以前書いたことがあったが、その一瞬の容量がどんどん増えてきているのである。
寝る前にコーンフレークが食べたいと言われた時、「コーンフレークは明日の朝にしようね」と言ってその場をなんとかやり過ごした翌朝、自分が忘れてパンを焼いていたりすると「フレークー!食べるー」ということになるわけだ。

心理学の世界では記憶には感覚記憶というものの他に、短期記憶と長期記憶というものがあるそうで、それは文字通り直近に起きた出来事と、長いこと心の中に残り続ける記憶のことである。
生まれて間もない子どもには「ダンゴムシがいた」「アイスを食べた」などの短期記憶しかないのは当然だが、ある程度の人生のスパンができてくると長期記憶が生成される。誰でも「誕生日のケーキ」「プレゼント」や「動物園や水族館」などの特別な場所に行った時の記憶は残っていると思う。これは長期記憶としてこの先ずっと保たれるものだろう。

前日の夜に「明日の朝食べようね」と言われたコーンフレークについては微妙なところだが、これは子どもの記憶が一晩寝ても失われていないということで、大人の時間軸で考えると「中期記憶」くらいになるのではないかと思う。いずれにせよ、その瞬間に生きている子どもはその場をなんとかやり過ごせばどうにかなる、という時期から、子どもの方が養育者より記憶をしっかり保っているという現象が起こる時期がくる。こうなると、もしそのことを自分が忘れていたりした場合「父さんの嘘つき!」と言われても仕方がない状況になるので困ったものである。

大人はどんどん歳をとって老化していくと、今度は逆に短期記憶から先に失われていく。高齢者が何度も同じ昔話を繰り返すのに、さっき話したことを忘れてしまうというのはその典型的な例だ。最近自分もそういうことが多くなってきており、昨日の晩ごはんに子どもに何を食べさせたのか思い出せないことなどが多々ある。

美しく楽しい記憶だけが残り、都合の悪い記憶はなくなっていけばいいのだけれど、どうもそう簡単にはいかないのが人間である。3歳の誕生日に食べたケーキやプレゼントにもらったレゴブロック、そしてせっかく買った風船を破って叱られた記憶は、息子にどのくらい残っているのだろうか。
この先どんなことが起きてもその記憶をもとに「全然大丈夫じゃないけど、大丈夫!!」という感じで生きていってもらえたらと思う。

(by 黒沢秀樹)

【編集部より】
なんと発売日にAmazon売れ筋ランキング「家族問題」で3位に、「子育て」の新着ランキングで2位になりました!
◆各章に加筆修正の上、新章「黒沢秀樹さんに育児にまつわる20の質問」を追加。おおくぼひでたかさんの描き下ろしイラストも収録!
◆本書は当ブログ「だいじょうぶ、父さんも生まれたて」スタートから約3か月の記事を収録しました。本書に収録した記事は一部を除きブログからは削除いたしました。ご了承ください。
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