観蔵院ペット霊園ニルバーナで立会火葬
朝起きて1階に降りると、ムッギンガム宮殿は空っぽだった。ムギは段ボールの中にいるのだ。
妻が動物病院に電話した。先生に報告とお礼を伝え、葬儀場の相談をした。このあたりの人がよく使うという3つの業者さんを教えてもらった。
うち1つが「観蔵院ペット霊園ニルバーナ」だった。この名前には聞き覚えがあった。たまたま友人が去年愛犬の葬儀をしたところだったのだ。友人に連絡を取ると、「感じのいいところだった。自分はそこでお願いしてよかったと思っている」とすぐ返事をくれた。
そこで、3つとも調べてはみたが、だいたい気持ちが固まった。
すぐ連絡をとれば当日の火葬も可能だったのかもしれない。しかしぼくらはぐずぐずしていた。
午後になってから妻が電話しようとした。しかし電話番号を全部押せない。途中で指が止まってしまう。かけてくれと言われ、ぼくが代わった。
ひと言めは「猫の葬儀をお願いしたいのですが」だったと思う。「猫ちゃんお亡くなりになったんですか。ご愁傷さまでございます」と返ってきたのだったと思う。
実務的な内容はふつうの声で話せた。今日はもう空きがないというので明日の午前中はどうか訊き、朝9時はと言われたが早すぎるのでお昼ごろにしてもらった。
供養に3種類のコース、立会火葬と個別火葬と合同火葬がある。合同火葬は合同供養塔に埋葬されるのでお骨を引き取ることができない。立会火葬と個別火葬はどちらもお骨を引き取れるが、火葬に立会い自分でお骨を拾えるのは立会火葬だけだ。このへんは事前にホームページを見て立会火葬に決めていた。
費用はホームページにも明記されていたが、電話でもあらためて説明してくれた。シンプルでわかりやすかった。供養の種類と動物の大きさ(体重)だけで決まり、細かいオプションなどはなかった。細かいことを考えられる精神状態ではないので助かった。
持参するように言われたのは、綿のタオルとお花、好きだったごはん・おやつなどだった。
タクシーでつける場所の注意点を聞いて用向きは終わった。安心して気が緩んだのか「わかりました。では明日よろしくお願いします」と言うとき声がひっくり返ってしまった。奇妙に高い声が出てまともに発音できなかった。
相手の方は驚いたかもしれない。あるいはよくあることでなんとも思わなかったかもしれない。
結果的にもう一日ムギといっしょにいられることになった。嬉しかった。しかし夏だし、遺体の状態には注意しなければいけない。冷房を25度に設定して、5時間ごとに保冷剤を総交換した。5時間ごとに短いあいだだが対面できたわけだ。やっぱりムギは眠っているようだった。
お花を買いに行った以外何をしていたのか覚えていない。あまり何もしていなかったのだと思う。ただムギのことを考えていた。悲しみがこみ上げてきたときは我慢せずに泣いた。
(by 風木一人)
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