『猫が30歳まで生きる日』とその後の情報

猫が30歳まで生きる日

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『猫が30歳まで生きる日』(宮崎徹著)を読んだ

これはすごい本だった。ぼくはアマゾンで発売前に予約したのに届いたのは発売日から4日後で、奥付には第2刷とあった。発売前に重版出来してしまったのだ。よほどの話題書でないとこんなことはない。

多くの人は猫の健康に関心があってこの本を手に取るだろう。これまで治すことができなかった慢性腎臓病が治り、猫の寿命が飛躍的に伸びるというタンパク質「AIM」の研究について知りたくて読むだろう。

ぼくもそうだった。そしてその希望はかなえられた。なぜほとんどの猫が腎臓病になるのか、なぜ治せなかったのか、なぜAIMを使えば治せるのか、宮崎徹教授によるAIM研究の歴史と現状がものすごくわかりやすく書かれている。
それだけでも満足だった。数時間かけて読む価値が充分あると思った。しかしそれだけではなかったのだ。この本にはさらに大事なことがいくつも詰まっていた。そこに驚いた。

まず、AIMは猫の腎臓病を治すだけではない。人間の腎臓病も治せる見込みがある。さらにアルツハイマー型認知症や肝臓がんなど複数の難病を治療あるいは予防できる可能性がある。AIMが効くメカニズムは猫でも人間でも基本的に同じで、猫のための研究は人間のためにも役立つのだ。宮崎教授の研究が順調に進めば医学の世界に革命が起こると言っても過言ではないだろう。猫の寿命が30歳になるとともに人間の寿命も120歳になるかもしれないのだ。

別の角度から見てみよう。この本は宮崎徹教授の少年の日や学生時代のことにも触れていて、その生きざまを語る一冊ともなっている。
現代医学では治せない病気を治したいという大きな夢を抱いた青年が世界に飛び出し、フランス・スイス・アメリカで研究を続け、数十年かけて夢の実現へ一歩ずつ迫っていく大きな物語に胸を強く揺さぶられた。
著者は20代から将来を嘱望された特別な人ではあるが、われわれ凡人が学べる教訓も多くある。10年結果が出なくてもあきらめないこと。専門性や常識にとらわれないこと。うまくいかなければ他のやり方を考えること。直感を信じること。みなそれぞれのレベルで誰もが実行できることだ。

現代日本への提言と思える部分もあった。日本で育ち日本で学んだ宮崎教授がなぜ20代のうちに海外で研究するようになったのか。海外の方が得られる研究環境がよかったからだ。
近年多くのノーベル賞受賞者が言っているのと同じことを宮崎教授も言っている。基礎研究の大切さ、基礎研究は長い目で見なければいけないこと、それが日本では蔑ろにされていること。
目先の利益にとらわれていては本当に大事なものを失ってしまうのだ。われわれ日本人はそろそろ目を覚まさなくてはいけないのではないだろうか。

AIM研究を支える広い視野

最先端の研究を紹介しながら全体に驚くほどわかりやすいのも本書の特長だ。それはひとつには宮崎教授が非常に巧みに比喩を使うからだろう。
平常時は大きなタンパク質と結合していて緊急時になると離れて単独で活動するAIMを、航空母艦からスクランブル発進する戦闘機にたとえる。
大学院生のとき世界最高峰の学術誌に論文が掲載されたことを、学生リーグのルーキー投手がメジャーリーグで勝ち星をあげることにたとえる。
絶妙である。

比喩がうまいのは宮崎教授がとても視野の広い人だからだと思う。比喩というのは遠い場所にある似たものを見つけてくることだ。広く見渡せる知性がなければうまいたとえ話はできない。
本書を読んでいると宮崎教授はいわゆる専門バカとは対照的な方であるのがわかる。学生時代は医学部をやめて音大に入りたいと考えたほどの音楽愛好家だし、かなりのワイン通でもあるらしい。専門分化が激しい現代医学界にあって、特定の学会には属さず、様々な専門領域を持つ医師、獣医師、さらには企業人とも連携し、治せない病気を治すという大目標への道を切り開いていく。
文中に「意気投合」という言葉が何度も出てくる。すばらしい出会いがいくつもあってAIMの謎は解明されていくのだが、それはただの偶然ではなく本人の魅力が呼び寄せているとしか思えない。才能の輝きと同じくらい人間的魅力も輝いているのだ。

この本を読んだときムギはまだ手を伸ばせば触れられるところにいた。しかし3週間後には遠くへ旅立ってしまった。ムギには間に合わなかったけれどたくさんの猫と猫を愛する人のために一日も早くAIM製剤が完成してほしい。

猫用の薬と並行して人間用のAIM製剤の研究も進んでいる。現在は治せない難病が治せるようになれば、いつかぼくがAIM製剤で命を救われることだってあるかもしれないのだ。そのとき「この薬をムギにも使ってやりたかったなあ」と思い出すのだろうか。

『猫が30歳まで生きる日』(時事通信社)は8月4日発売だった。AIMを知るための最新・最高の本だがネット上にはその後の情報もある。7月に大きく報じられて以来、状況は速いスピードで動いている。

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8月20日のこの記事には、本にも出てくるAIMを活性化するサプリ(ドリアン抽出物から作成)について、「多分今年末から今年度中には出せるよう頑張っています」とある。もうすぐだ。
AIM製剤そのものについては「今年の終わりぐらいに再開できたと仮定すると、2024年の最初、うまくいけば2023年の終わりぐらいには完成できるのではないか」と推定している。

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8月27日のこの記事ではAIM製剤の価格に触れている。タンパク質製剤は非常に開発コストの高いものだそうだが、「理想としては実費だけで打てるようにしたい」「数千円から1万円くらいに」と宮崎教授が語っている。

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こちらは10月2日の記事。新型コロナウイルスの影響で中断した研究開発の再開見通しについて、複数の製薬会社と交渉中で、パートナーとなる製薬会社が決まれば2年以内に認可までいける見通しとのこと。

そして10月3日、宮崎徹教授自身のツイッターで大ニュースが!

パートナーとなる製薬会社が決定し、開発を再開できるとのこと!
ということは上の情報と合わせると2023年秋にAIM製剤が実用化しそうになってきたのだ。

ムギが21歳だったからぼくにはわかる。老猫や腎臓をやんだ猫にとって2年はものすごく長い。気が遠くなるほど長い。まだそんなにかかるのかと落胆する人も多くいるのが現実だろう。

それでも希望の光が見えてきたことをいまは喜びたい。

(by 風木一人)


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