伝統の味と新しいスパイス『うしのもーさん』(風木一人・作 西村敏雄・絵 教育画劇)

新しいお店ができたら入ってみたくなる。新しいというのはそれだけでひとつの魅力だ。一方で、行きつけのお店の魅力もある。いつ行っても変わらぬ味と笑顔が待っている安心感だ。

絵本を作るとき、何か新しいことを、と考える。しかしそれは新しいものだけで作ろうということではない。新しいものと昔からあるもののバランスが重要だ。
昔からあるものとは絵本で多く使われてきたパターンで、ストーリーのパターン、画面展開のパターン、キャラクター造形のパターンなどいろいろある。

『うしのもーさん』は西村敏雄さんと2冊目の共作で、1冊目は『たいようまつり』である。
『たいようまつり』は太陽が8つ出てくるという、明らかに突飛な(新しい)発想からスタートした。突飛なところからスタートして、ぼくが考えたのは、あとはなるべく素直に展開させようということだった。
新しいものに新しいものを重ねるのはうまくいかない。なじみの、安心できる部分がないからだ。素材で冒険するなら調理法はオーソドックスがいい。

「うしのもーさん」風木一人・西村敏雄・教育画劇

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『うしのもーさん』は対照的に昔話以来の古典パターンを採用している。
「わたしものせて」「いいとも」の繰り返しで、大きな牛のもーさんの背中に動物たちがつぎつぎ乗っていく。絵本好きならすぐ『ぞうくんのさんぽ』や『てぶくろ』を思い出す展開だ。
行きつけのお店型は、なじみの安心感があるから読みやすいが、何か工夫しないと「でもやっぱり老舗の味には負けるよね」と言われてしまう。パターンを使うときは、どこかで既定のレールから外れなくてはならない。反対に行くとか、浮き上がるとか、微妙にそれるとか。
素材も調理法もオーソドックスなら、新しいスパイスを効かすのだ。

男の子、ネコ、イヌ、タヌキ3兄弟、イノシシまで乗せて、それでも悠然と歩いていたもーさんがふと立ち止まり、ぽそっと言う。「ぼくも……のってみたいなあ」
ここが閃いたから、この状況を思い浮かべたら一人で笑ってしまったから、この絵本を作った。
このセリフを聞いたみんなの表情が見ものである。前のページのにこにこ顔からの変化を西村敏雄さんの絶妙の絵で楽しんでいただきたい。

作りながら、与える喜びと与えられる喜びのことを考えていた。してあげる喜びとしてもらう喜びと言ってもいい。してもらったからしてあげるわけではない、お返しではないことが大事だと思った。それが伝わる絵本になっていると嬉しい。

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