『まるまるまるのほん』にヒントを得た参加型絵本『たまごがあるよ』

自著紹介も『たまごがあるよ』(風木一人・作 たかしまてつを・絵 角川書店)までやってきた。2017年刊。ここまで来るともう最近という気がする。
『とりがいるよ』同様、『たまごがあるよ』のことも各所で語っている。◆くもんの絵本サイト「ミーテ」のインタビュー「赤ちゃん絵本を楽しもう!」
ブログでも「シリーズ化」という切り口で連続2回取り上げた。<その1> <その2>

今日は別の話をしなければ、というわけで、上の記事で「いずれ改めて書く」といった「参加型絵本」について話すことにしよう。

まるまるまるのほん

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2010年に画期的な絵本が登場した。『まるまるまるのほん』(エルヴェ・テュレ作 谷川俊太郎訳 ポプラ社)だ。
売れている本だからご存知の方も多いだろう。読み聞かせをする人々の間では特に有名かもしれない。
何が画期的かというとこの絵本は「参加型」なのだ。読者に直接呼びかけ、なんらかのアクションをしてもらうことで次のページへ進むようにできている。たとえば「じゃ こんどは ほんを ちょっと ゆすってみよう」という文章がある。ゆすってめくると、なるほど「ゆすったゆえの展開」が待っている。そういう絵本だ。

参加型はじつは紙芝居では昔からあった。『おおきく おおきく おおきくなあれ』(まついのりこ作 童心社)などはロング&ベストセラーである。大勢に向けて読むのが前提の紙芝居では観客といっしょに盛り上げていく発想は自然に出てくるのだろう。紙「芝居」であるから。
一方、絵本は絵「本」であり、本はパーソナルな楽しみという先入観があるからか、参加型はほとんど見られなかった。無論ゼロではない。たとえば『まるまるまるのほん』より少し前に出た『まくらのせんにん そこのあなたの巻』(かがくいひろし作 佼成出版社)はクライマックスに参加型を導入した傑作である。

先例があってもなお『まるまるまるのほん』が画期的なのは、まずその完成度だ。初めて見たとき唖然とした。いきなり参加型絵本の完成形がぽんと出てしまった印象だった。一部に参加型が使われているのではなく、最初から最後まで参加型だし、絵を完全に抽象化することによって(カラフルな丸しか登場しない)、キャラのかわいさや景色の美しさといった他の魅力要素をすべて放棄し、「参加型の喜び」のみで1冊を作りあげている。

もう一つは時代の文脈だ。発表年2010年はどんな時代だったか。
2007年にiPhoneが発売された。最大の売りはマルチタッチ、指だけで多様な操作ができることだった。同年11月にはamazonのkindleが発売された。同時に大量の書籍が電子化された。
2010年にはいよいよiPadが発売になる。覚えている方もいるだろう。Alice for the iPadの宣伝動画が世にあふれた。iPadを振ると懐中時計が揺れるとか、傾けるとパーツが転がり落ちるとかのインタラクティヴな効果は、今ではだれも驚かないものだが当時は鮮烈だった。
これからは電子だ。紙の本は終わったと言われた。

それに対するアンチテーゼとして『まるまるまるのほん』は作られたに違いない。
証拠はタイトルにある。日本語では残念ながら生かされていないが、原題はフランス語で「Un livre!」英語にすれば「A book!」、つまり「本」だ。
紙の本は終わったとメディアが騒いでいるときに『本』という紙の本を出した。意味がないわけがない。
これは、本とはいったいなんだったのかもう一度考えてみようぜ? という本なのだ。
作者エルヴェ・テュレの声が聞こえてくるようだ。
「紙の本は動かない? へえ! 君のは動かないの? ぼくは本を読んだら動くし聞こえるし触れるよ?」
エルヴェ・テュレは参加型(インタラクティヴ)によって、本の本質は紙か電子かとはまるで関係なく、想像力であることを示した。
作者の想像力が読者の想像力に火をつける、それが本なのだ。
この当り前なことが電子書籍という新しいものが出てきたゆえに再認識されたのは、ぼくには面白いことに思われる。

真に革新的な作品はフォロワーを生むものだ。数年すると、参加型の絵本が続々出た。『おおかみだあ!』『さわってごらん! ふしぎなふしぎなまほうの木』など。優れた作品が多くの作家の創作魂に火をつけるのはもちろんいいことである。

ぼくもまた参加型の絵本を作りたくなった一人だった。
『まるまるまるのほん』を読んだとき、素直に感心するとともに悔しかった。なぜ自分にはこれが作れなかったのか、と思った。
そういうことはまれにある。優れた作品というだけでは悔しくはならない。優れていると同時に、自分の作家性とどこか通じるものを感じるとき、なぜこの人にできて自分にできなかったのかと悔しくなる。

『まるまるまるのほん』の参加型としての完成度が高すぎたので、同じリングで戦う気にはならなかった。
参加型というアイデアを最大限に生かすという方向性ではなく、他にメインアイデアがあり、それを生かすための道具として参加型を使いたいと思った。
頭の隅でずっと考えていたが、なかなかはまる場所が見つからなかった。
『とりがいるよ』の続編として『たまごがあるよ』のアイデアを思いついたとき、これだ!と思った。
「たまごがあるよ。とんとんって たたいてみて」
たまごがある。ページをめくると鳥の赤ちゃんが生まれる。ここだ。この間にこそ、読者に参加してもらう場所がある!
大事に持っていたパーツがやっとはまった。
『まるまるまるのほん』に衝撃を受けてから7年が経っていた。

たまごがあるよ

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おおきくおおきくおおきくなあれ

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まくらのせんにん そこのあなたの巻 かがくいひろし

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ふしぎなふしぎなまほうの木

クリスティ・マシソン作

おおかみだあ!

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