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夢のように楽しい世界を子ども読者に見せるのは絵本作家の大事な仕事だろう。しかし絵本作家もひとりの生活者であり、おとぎの国ではなく現実世界に生きている。現実世界の政治や経済と無縁ではありえないし、それが作品世界に影響を及ぼすことだってもちろんある。
ブリッタ・テッケントラップが『かべのむこうになにがある?』を作った背景には世界情勢への深刻な危機感があると思う。そのことは書評専門誌「週刊読書人」に書いた。「勇気ある人たちに、そして壁のない世界に」
この絵本を読んだとき真っ先に浮かんだのは、英国のロックバンド、PINK FLOYD のアルバム「The Wall」だった。なんたってジャケットがそっくりなのだ。赤い壁と白い壁。
ついで『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(村上春樹著)も浮かんだ。壁に囲まれた町に幽閉された主人公が、ゆうゆうと壁を越える鳥たちを見て、壁が完全無欠ではありえないことを知る。絵本と相似形の主題が鳴っていると言っていいだろう。
壁に囲まれた町がある。そこに住むのはねずみ、ねこ、きつね、くま、らいおんだ。
好奇心旺盛なねずみは壁のことがとても気になる。なぜあるのか? いつからあるのか? だれが何のために作ったのか?
だから訊いてまわる。しかし答えは期待外れのものばかりだ。
ねこは「外には怖いものがいっぱいある。壁が私たちを守ってくれている」と言う。
くまは長く生きているはずだが、何も知らないし思い出せない。「昔からずっとあった。あるのが当り前だから不思議に思ったことはない」
きつねはあからさまに面倒くさがる。「難しいことを考えるのはやめろよ。そうすりゃハッピーになれる」
らいおんはすべてをあきらめていてねずみを見ようともしない。「壁の向こうになんて何もない。闇だ。果てしない闇だ」
希望は壁の外からやってくる。鳥だ。「どこから来たの?」と問われた鳥は「壁の向こうの世界から」とさらっと言う。
ねずみは鳥とともに壁を越える。ここで絵本らしい表現が発揮される。色使いががらっと変わるのだ。壁の外にあるのは闇でも怖いものでもなく「たくさんの色であふれる夢のような世界」だった。
勇気を持って飛んだねずみは本当のものを見た。そして「みんなにも本当のものを見せたい」と願い壁の町に戻ったとき、さらなる驚きが待っている。
鳥は言う。
「生きていればたくさんの壁に出会うものさ。でもそのほとんどはただの幻だ」
壁は心の中にある。ぼくたちは本当は知っている。越えられないと思うから越えられないのだ。敵だと思うから敵なのだ。
どこから外でどこから内なのか? だれが上でだれが下なのか? だれが普通でだれが普通でないのか? 決めているのはじつは「みんながそう言っている」「昔からそうだった」「自分で考えるのは面倒くさい」そんないい加減なものの集合体ではないのか。
この絵本は「勇気ある人たち」と「壁のない世界」に捧げられている。
「すきとおった目で本当のものを見る勇気を持ってほしい。だれかが言ったからではなく自分の頭で考えてほしい。それだけが、いつか壁のない世界を実現する」
子どもたちへのブリッタ・テッケントラップのメッセージはこういうものだとぼくは読んだ。
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