見て損はない「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」と「ウルフウォーカー」

現在、爆発的ヒット中の「鬼滅の刃」、見て損はない映画だ。「週刊朝日」の記事で、若干の予習をして見に行った。予習して観なければチンプンカンプンだろう。元々は漫画(少年ジャンプ)が原作で、テレビで放映されて人気を博した。この映画は、そのテレビが終わったところから始まる。

監督:外崎春雄 声の出演:花江夏樹 鬼頭明里ほか

監督:外崎春雄 声の出演:花江夏樹 鬼頭明里ほか

漫画の全体の骨子を簡単に言うと、大正時代、鬼に家族を殺された主人公竈門炭治郎が、修行して「鬼殺隊」に入って、強い「柱」となって、鬼たちと闘うストーリー(らしい)。
その鬼殺隊のメンバーを始め人物たちの絵は、小学生が対象であるせいか素朴かつ単純である。宮崎駿の映画と違って、表情が豊かではない。また、女の子とのデートシーンでは目がハートマークになったり、驚いた時は点になったりする緩いところもある。

この映画は、東京から「無限」駅まで向かう列車に200人ほどの人間の乗客がいて、その客を食おうとする鬼と4人の鬼殺隊の闘いを描く。
3分の1ほどは、登場人物の過去が語られ、真ん中は列車が驀進する中、主人公と「上弦の弐」の鬼(鬼にもランクがあるらしい)が闘い、ラストは「上弦の参」の鬼と煉獄杏寿郎が死闘を演じる。
やっとここまで書いて感想が述べられる。最初は中々作品の中に入っていけないし、真ん中のパートは列車の疾走感はあるものの、鬼の変化がグロテスクなこともあり、闘いがかなり長く感じられる。しかし、最後の死闘がなかなかいいのだ。見ていて、段々と映画的高揚を感じてしまった。
「才あるものは人のために尽くす」という母親からの教えを守って全身全霊を掛けて闘う杏寿郎の悲壮な姿に何だか感動してしまった。段々夜が明けていく(それが闘いの鍵を握る)時の、ハラハラする描写もいい。森に向かって「卑怯だぞー」と叫ぶ炭治郎がとてもいい。
ラスト、3人の鬼殺隊の隊員が立ちすくみ泣くシーンは、生身の人間が演じているような感覚を抱いてしまったほどだ。

多彩な人物が出てくるが、話そのものはシンプルで、意外や、メッセージ性が強い。「とにかく生きるのだ」、「人のために生きろ」、というのは観客の心を撃つのではないか。少なくとも私はそうであった。また、炭治郎の「精神の核」がビジュアル化された美しい空が出て来るように、この映画は、精神の深いところを探ろうとしている感じも持った(ビギナーには完全には理解できないが)。

この映画が大ヒットを飛ばしている理由は何だろう。若者がずっとコロナで好きなことが出来ず閉塞感を持っていたので、コロナが少し落ち着いた時、テレビの先が見られるというので押し掛けたのではないか。そして、それなりに映画として良く出来ていたという事だ。また、小学生が対象の漫画雑誌とは言え、生きることに関して直球のメッセージを打ち出しているところが支持された理由ではなかろうか。(鬼がコロナに重なるという説はあまり首肯出来ないけど。。)

「ウルフウォーカー」監督:トム・ムーア ロス・スチュアート

「ウルフウォーカー」監督:トム・ムーア ロス・スチュアート

さて、好きな映画をもう一本。予備知識なしで見た新作「ウルフウォーカー」に圧倒された。アイルランド発アニメである。不勉強で知らなかったが、共同して作った二人の監督は、これまでもケルト人を描く作品を2作作っていて、「ウルフ」を入れてケルト3部作とされる。

時代は17世紀後半。イングランドがアイルランドを支配していた頃である。ハンターの父を持つ少女ロビンは、森で、ウルフウォーカーの少女メーヴと出会う。メ―ヴは狼と魔女がミックスしたような存在であり、夜になると狼に変身する(容貌は現代のパンク少女みたいだ)。ロビンはメ―ヴに咬まれたために、夜に、魂が飛び出し狼に変わる存在となる。
「護国卿」という城内の支配者が森に住む狼の退治をしようとし、ロビンは狼たちを守ろうと懸命の活躍をする。

とにかく「絵」が素晴らしい。中世のヨーロッパの城壁の街、対比される森、とてもよく描かれている。緑色や黄土色が印象的な色彩もいいが、構図も良く、画面全体に疾走感があるのがいい。ラフな線描が多く、緻密な宮崎駿アニメよりも「かぐや姫の物語」の高畑勲のタッチに近い。
ロビンが狼に変身してからは一気呵成に物語が展開して、映画に引き込まれる。やや矢継ぎ早の展開であり、見終わって若干疲労を感じるのが難点か(?)。上映後、若い観客からは「面白かったあ」と言う声が聞こえてきた。その吉祥寺の映画館はコロナに関わらず満員の入りであった。

(by 新村豊三)

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