
<赤ワシ探偵シリーズ3>ノルアモイ第八話「ノルアモイ」by 芳納珪
がちゃん! 瀬戸物が触れ合う大きな音がした。 驚いて自分の手元を見ると、しゃれたカップのふちから飛び出したコーヒーが、ソーサーの中と、そのまわりのテーブルの上を濡らしていた。 カップを置...
芳納珪の私設レーベル。ワクワクする空想冒険譚をお届けします。
がちゃん! 瀬戸物が触れ合う大きな音がした。 驚いて自分の手元を見ると、しゃれたカップのふちから飛び出したコーヒーが、ソーサーの中と、そのまわりのテーブルの上を濡らしていた。 カップを置...
「それはありがとうございました」 私は立ち上がって頭を下げた。高級感あふれる上層の部屋で貴婦人を前にしているのだから、舞台俳優のようなお辞儀ができればよかったのだが、やり方がわからなかっ...
いい子にしないとノルアモイがやってくる。 青い炎のたてがみを猛々しくなびかせて。 その首は鋼鉄のように硬く、 両眼はペリドットのように光る。 ノルアモイは青い炎に焼かれ続けている。 だか...
「おい!」 私は小さく叫んで、グレコのあとを追おうとした。が、彼と私とでは身体の大きさが全然違う。グレコが通り抜けた隙間に、私は顔も入れることができない。 仕方なく、私が通れる隙間を探...
腕を組み、目をつぶって考え込んでいたグレコは、とつぜん「あーっ」と叫ぶと、帽子をつかみとって、両手でぐしゃぐしゃと頭をかきむしった。 「くそう、だめだ。うまく説明できる気がしねえ。俺が説...
「本当か!」 話を聞いてやると言った途端、占いねずみのグレコは目を輝かせた。それから、やけにしんみりした、遠くを見る目つきになった。 「俺、俺はよう……ロスコに拾われなけりゃ、死ぬ...
ちょうどそのとき、おかみさんが私の火星坦々麺を運んできた。 空腹が最高潮に達していた私は、グレコと名乗った占いねずみのことはそっちのけで、反射的に箸をとって坦々麺を食べはじめた。 縮れ麺に...
「やってるかね」 私は「月世界中華そば」の暖簾をよけ、引戸を開けて声をかけた。黄味餡みたいなおかみさんが、巨体をゆすりながら奥から出てきた。 「あら赤ワシのだんな、いらっしゃい。今...
月明かりの晩。 立体都市トキ市を縦横に走る無数の歩廊のうちのひとつ。その端の溝に、小さな黒い影がうごめいていた。 ちょろちょろっと進んでは立ち止まり、ゆらゆらと左右に揺れる。しばらくするとまた...
好評発売中・イラストレーター5名による空想絵物語アンソロジー『五つの色の物語』に収録された<赤の物語>『塑界の森』(芳納珪 / 服部奈々子)の冒頭部分を試し読みできます。明治期の日本を思わせる架空世界の画学生が主人公の青春ファンタジー小説です。収録されたイラストも一部掲載します。