僕が生まれ育ったのは、下北半島の大間町そして津軽平野の尾上町という、とても自然豊かな場所だった。
でも北国の夏は短く、蝉が鳴く期間も限られていた。
その蝉たちに教えてもらったことがある。
それは、天候の移り変わりのサイン。
東京で暮らすようになってから、特に土曜日の夏の夕立が好きになった。
ライブに出かける時に急に降ってくると、ビルの軒下(ビルの「軒下」とは言わないか)で雨宿りし、空を見上げてはその激しいシャワーを楽しむ。
僕はその時、雨音にも蝉の声にも耳をすます。
すぐやむならば、蝉は鳴き続ける。本降りになるならば、蝉は鳴くのをやめる。
このやりとりが何しろ興味深かった。
夏の夕立は僕にとって、都会でのちょっとした自然観察ショーなのだ。
天気予報は、雲の動き、気圧の上下、過去のデータなど、多くの材料から総合的に判断して出される。
今は手元のスマホで天気予報を知ることもできる。
でも、蝉は野性のアンテナを駆使し、音で夕立の行く末を知らせてくれる。
いや、間違えた。「知らせる」なんて意識は、蝉には無い。
彼らは自然とコール&レスポンスをしている。
短い夏を、自分たちの音で満たしている。
蝉の声に背を押される土曜日の夜は、いつもあっという間に過ぎてしまう。
そして気がつけば夏も去り、夜は静かな虫の声のなかへ。
さあ、そろそろその声に耳をすませる季節だ。
コール&レスポンス!
(おまけ)山下達郎「土曜日の恋人」(1986) のカバー。
Tatsuro Songs From L.A. 2 (1991)
https://www.youtube.com/watch?v=_zTpCJ1-RFk