・・風呂
お風呂場にしちゃおうか
つららをしおれさせ
衣類は薪にくべよう
洗い流して体表が削れても
垢と呼べばこともなし
得意げに鼻ふくらませてうたおう
無限に重なるエコーの波紋
のど自慢は音痴のまえにひれ伏し
音痴はのど自慢をいたわる
別々の曲を合唱しよう
たまに和音になっても気にしない
片腕ないのも
尻がでかいのも
ほくろも
風呂場ではぼやけている
ふやけている
境界の曖昧さも
知性を遠ざけはしない
ここでは
みながユリイカ
アルキメデス
物理学の歴史が始まる
足元を石鹸がすべるから
ニュートンの誕生は近いぞ
慣性の法則
等速直線運動
公式は鏡に指文字
なぞってもなぞってもすべては消えていく
湯船にうかぶうたかたはむすんでひらいてすくわれて
数学と
無常観と
信仰が
融合したような
していないようなどっちなんだどうなんだ
生き返るのかキリスト
そして無数のユダ
ああ生き返るようだ
いいことだ
貧しきものは幸いなり
極楽とはあふれんばかりの湯だ
芯までほぐす油断だ