別訳【夢中問答集】第八十六問 褒めたり貶したりする芸風とは?

足利直義:確かに「禅宗には抑揚褒貶(よくようほうへん)という芸風があって、仏さまや歴代の師匠であってもボロクソに貶したり、逆に必要以上に持ち上げたりするものだ」と聞いたことがあります。

ただ、「それは仏さまや歴代師匠に対してのことなのであって、それ以外の、例えば修行者などに対しては本当に貶したり褒めたりしているのだ」、と言っている人がいるのですが、その辺りはいかがお考えでしょうか?

夢窓国師:抑揚褒貶の方便は、仏さまや歴代師匠のためにあるのではない。
まさしく修行者を導くためにあるものじゃ。

……というのもまた方便なのであって、本来、仏さまや師匠たちと修行者は全く同じものなのじゃ。

「仏だから偉くて、一般人は取るに足らない」という考え方は間違っておる。

ただ、そのことがよくわかっておらん連中のため、考え方のヒントとして本当には思ってもいないにも関わらず、ある時は褒め、ある時は貶してみせるだけのことじゃ。

まぁ世の中のアホどもはそれらを全て真に受けてしまって、褒められれば喜び、貶されたら怒る始末。

怒らないまでも「私のどこが至らなかったんだろう……。直さなければ!」などと思うことなどはよくあることじゃ。

世間的に名の知られた師匠であって「仏さまと一般人は違うものではない」ということを口では言いながらも、実際は修行者たちの行いを見て普通に出来不出来を判断して褒めたり貶したりしておることも、またよくあることじゃ。

円覚経に「世も末になってくると、仏教の修行者であっても『自我』を捨てきれず、自分の属する宗派を支持されれば喜び、否定されれば怒る」と書かれておるのは、このことじゃな。


☆     ☆     ☆     ☆

★別訳【夢中問答集】(中)新発売!(全3巻を予定)
エピソードごとにフルカラーの挿絵(AIイラスト)が入っています。
上巻:第1問~第23問までを収録。
中巻:第24問~第60問までを収録。

 

別訳【碧巌録】シリーズ完結!
「宗門第一の書」と称される禅宗の語録・公案集である「碧巌録」の世界を直接体験できるよう平易な現代語を使い大胆に構成を組み替えた初心者必読の超訳版がついに完結!
全100話。公案集はナゾナゾ集ですので、どこから読んでもOKです!

★ペーパーバック版『別訳【碧巌録】(全3巻)』

 

スポンサーリンク

フォローする