別訳【夢中問答集】第四十一問 世間と折り合いをつける方法とは? 2/5話

また、別のヤツの例もあるぞ。

それも同じ頃の話なのじゃが、ワシの下宿先にはフロがなくてな。いつも近所の坊さんの家までフロを借りに行っていたのじゃ。

そこの家のフロ場にある柄杓は面白いつくりをしておってな。竹筒の真ん中に節があって、両方でお湯を汲めるようになっていたのじゃ。・・・まぁ、なんというか、単なる節水対策なのじゃが。

で、ワシの下宿仲間に、この柄杓を見るたびにこんな文句を言うヤツがおった。

「なんやねん、このヒシャク・・・ こんなんしたら湯が汲みにくいっちゅーの! まったく、セコイ主人やで! だいたいあいつは昔からセコイやつで(以下略)」

ワシは言ってやったよ。

「まぁまぁ、そう言うなよ。聞くところによると、仏や菩薩は芥子粒の中に須弥山を入れることができるそうじゃないか。で、須弥山が入ったからといって、芥子粒が巨大化するわけでもなければ、須弥山が縮小するわけでもないと。
維摩のオッサンは自分の部屋に六十七万km以上もあるアホみたいなサイズの椅子を三万二千脚も入れたという話じゃが、後日その部屋のサイズを測ってみたところ、なんと四畳半しかなかったそうじゃ。
今オマエさんがムカついているのは、この柄杓が小さすぎることに対してなのじゃと思うが、もしもオマエさんがこの境地を得ることができたなら、その同じ柄杓でもって海の水を全部汲み上げることだってできるハズじゃ。
わかるかな? 小さいのは柄杓ではなく、オマエの心。セコイのは主人ではなく、オマエさんなのじゃ!
・・・なーんちゃってみたけれど、ぶっちゃけワシもそんな境地には達していないので、大きいものを見れば「大きいなぁ」と思うし、小さいものを見れば「うわ、ちっさ!」と思うよ。
じゃがな、さっき言ったみたいな理屈を知っているから、大きいとか小さいとかでいちいちムカついたりはしないのじゃよ」、とな。

そいつはそれ以来、その柄杓を見ても、「以前ほどはムカつかなくなった」と言っていたっけな。(笑)


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