アングリマーラ 第1話(出典:賢愚経)

「アングリマーラ」(出典:賢愚経)

<あらすじ>仏弟子アングリマーラの苛烈な運命と、その元となる幾代にもわたる因縁をブッダが語ります。全編平易な現代語訳でお届けします。※2017年8月、電子書籍版を刊行しました。第2話以降はこちらでお読みいただければ幸甚です。専用端末の他、パソコンやスマホでもご覧いただけます。『超訳文庫アングリマーラ Kindle版』定価250円

超訳文庫アングリマーラ ぶんのすけ著

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今から2500年以上も昔のことです。

強国、コーサラ国に君臨するパセーナディ王に仕える大臣のひとりに男の子が生まれました。
生まれた子はとても美しくスッキリとした見た目であったので、大臣はもう大喜び。
さっそく占い師を呼ぶと、その子の将来を占わせてみました。

占い師は言いました。
「おお、これは素晴らしい! この子は知恵といい弁舌といいバツグンの才能を持っています!」

大臣はそれを聞いてさらに大喜びし、ついでに名前をつけてくれるように占い師に頼みました。
占い師は大臣に尋ねました。
「母親がこの子を身ごもってから、何か変わったことはありませんでしたか?」

大臣は言いました。
「おお、そういえばこの子の母親はどちらかというとあまり性格のよい方ではなかったのだが、身ごもってからは突然人が変わったようにつつしみ深く、また哀れみ深い性格になってしまったっけな。素晴らしい人がいれば素直に誉めたたえ、人の欠点をあれこれと言い立てることが全くなくなったのだ。」

占い師は言いました。
「なるほど。それこそまさに、この子の願いなのでしょう。そういうことであれば、この子は「アヒンサー(非暴力)」と名付けたらよいと思います。」

さて、その後アヒンサーはすくすくと育ち、1000人をひとりで相手できるほどの剛力と、飛ぶ鳥に届くほどのジャンプ力、疾走する馬を追い越せるほどの脚力を備えた青年となりました。
父である大臣は、屈強なアスリートとなった息子をさらにパワーアップさせるために、知識も知恵も当代随一であるという評判の大博士のところへ連れていきました。

博士はアヒンサーを500人以上いる弟子のひとりとして迎え入れ、朝から晩までビシビシと学業を仕込んだのですが、アヒンサーはみるみる頭角をあらわし、わずかな期間で一番弟子となってしまったのです。
博士はアヒンサーを、あちこちの会合に同席させることはもちろん、身の回りの世話までさせるほど大事にし、500人の弟子たちもまた、彼の優秀さには心から敬服していました。

さて、この博士には奥さんがいたのですが、アヒンサーがあまりにもイケメンでナイスボディなうえに体力も知力もバツグンな若者であるのにゾッコン惚れ込んでしまいました。
なんとか近づきたいと思っても、アヒンサーはいつも他の弟子たちと行動をともにしているので、声を掛けることすらできず、モンモンとしていたところ、博士が弟子たち全員を連れて長期出張するという話を耳にしました。

奥さんは夫である博士のところへいくと、こうお願いしました。
「ねぇあなた、長いこと留守にするのに私ひとりではとても心細いわ・・・ 誰か弟子たちの中で頼りになる力強い人をひとりでいいから置いていってくれないかしら?」
博士は言いました。
「なるほど、そういうことであればアヒンサーが適任だ。腕力もバツグンだし性格も最高だからな。」

博士はアヒンサーを呼びつけると、こう命じました。
「いいか、アヒンサー、私たちはこれからちょっと出かけてくるが、オマエは残って留守を守ってほしい。しっかり頼むぞ! 信頼するオマエだからこそ、任せるのだからな!」

そして博士とアヒンサー以外の弟子たちが全員出かけると、奥さんはウキウキしながら挑発的な服に着替え、クネクネとしなをつくりながらアヒンサーを口説きにかかりました。

ところがアヒンサーの品行方正ぶりはハンパではなく、全く口説きに乗ってきません。

あせった奥さんは、ストレートに想いを打ち明けることにしました。

「アヒンサー・・・ わたし、ずっと前からアナタのことが好きだったの。でも、ほかの人たちがジャマで、この気持を打ち明けることができずにいたのよ。今回アナタだけを残してもらったのは、私がお願いしたからなの。さあ、やっとふたりきりになれたわ! その若くて逞しい腕で私を抱きしめてちょうだい!!」

―――――つづく

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