4.総持(教えの帰するところ):「故知般若波羅蜜多」~「真実不虚」
<全ての教えは真言に帰すことを説くパート>
言うまでもないことだが、あらゆる教えは究極のところ、つまり真言に帰す。そのことを、呼び名・実体・効能の3つの側面から説明しているのがこのパートだ。
このお経を「大神呪・大明呪・無上呪・無等等呪」と四つの名で呼び、「真実不虚」の実体があるといい、「能除一切苦」の効能があると説く。
なぜ四種もの名で呼ぶのか? それは修行するものの属性によってこのお経の意味合いが変わってくるからである。
「見聞きしたこと以外は理解できない人」にとっては、このお経は「大神呪」となる。まるで神が与えてくれたものの如くであるからだ。
「進むべき道を見出した人」にとっては、このお経は「大明呪」となる。まるで闇が晴れわたるかのようにあらゆる事柄を理解できるようになるからだ。
「新境地を開いた人」にとっては、このお経は「無上呪」となる。これ以上のものは存在しないことがしみじみと理解されるからだ。
そしてオレのような真言密教マスターにとって、このお経は「無等等呪」となる。これ以上のものが存在しないどころか、唯一無二のものであることを知っているからだ。
真言とはこのようなものであって、ひとつの名の中に何種類もの意味合いが込めれらているものなのだ。
真実のところはひとつしかないのだが、それを表す言葉は無数にある。賢い人にはそれが理解できるハズ。
これをつなげて現代語訳するならば、以下のようなものになる。
言葉、意味、発生と消滅、不可思議な効能。
これらを生み出すものこそが真言なのである。
―――――つづく