こちらのお話は、前々回から続いています。
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アロハ〜♪みなさま。
ホテル暴風雨の海中顧問、クラーラです。
今回もアルバート様のお話が気になるので続きをお聞きしますよ。
クラーラ:「本当にどっちの人のお話も怪しいですよねえ。ホラ話じゃないのかしら」
アルバート:「またまた。本当は二人のことをちゃんとご記憶なのでしょう」
クラーラ:「そうねえ、元船員の老人というのはあの時の若者のことかしら。嵐で船が大破して沈みかけていたけれど生き残っている子がいたっけねえ」
アルバート:「クラーケンが8本の脚すべてに武器を持って襲ってきたと言っていましたよ」
クラーラ:「まっ!!失礼!愛用の工具持参で駆けつけて、端材でボートを作って乗せてあげたっていうのに!」
アルバート:「そうだったんですか。よほど恐ろしくてわけがわからなくなってたんでしょうね」
クラーラ:「そうねえ。あたくしもその頃ちょっと工作に凝ってて何か造りたかったただけだから、いいんだけどね。それにしても『クラーラ』ってちゃんと名前まで教えたのに、間違ってるし。溺れかけてる人ってそんなものかしら。仕方がないこと」
アルバート:「ご寛容ですね。命の恩人でありながら誤解されているというのに。もう一人の写真家のこともきっとご存知なんでしょう」
クラーラ:「心当たりはあるけれどね。でもあの子、本当に写真なんて撮れるの?撮りたいものを見つけた時に興奮している様子はわかるんだけれど、三回のうち一回はレンズキャップを外し忘れてるし、一回はシャッターを切り忘れてるみたいよ」
アルバート:「残りの一回は?」
クラーラ:「カメラの存在を忘れてぽかんと見ているだけね……人間界ってあんなんで大丈夫なの?」
アルバート:「……でも、あの方の撮った写真はとてもきれいでしたよ。実は写真を見せてもらって、こっちの人について行こうと決めたんです。カメラや機材も丁寧に手入れして使っているようでしたよ」
クラーラ:「あら、見かけによらずやるじゃない。どんな写真だったの?ひょっとして、知らないうちに撮られていたのかしら」
アルバート:「いえいえ、クラーラさんの写真はありませんでした。他も、特に珍しいものや驚くようなものは写っておらず、植物や風景の静かな写真が多かったです。その中に、一見影一つない水平線の写真がありました」
クラーラ:「それが特にお気に召したのね」
アルバート:「ええ。本当にどうということのない写真にも見えるのですが、水平線の上に見えない音符が踊るような、秘密の予感が隠れているような、美しい写真に見えました」
クラーラ:「詩人だことねえ。それで、彼女についてここまでは順調に?」
アルバート:「そうですね、幸い、海洋調査船に乗せてもらう交渉はうまくいき、途中で遭難したりはしませんでした。でも、『通り道だ』と言っていたのによく考えたら違ったらしくて、彼女は先に船を降りてしまったんですよ」
クラーラ:「うっかりするにもほどがあるわねえ」
アルバート:「『大丈夫大丈夫、そのうちあの辺に島が見えてくるんだから、ほらこの写真みたいな感じ』と言われて差し出されたのが、さきほどの水平線の写真でした。よく見るとケシ粒みたいな島がひとつ写っているのです」
クラーラ:「……」
アルバート:「船に乗っていた方々も、そんな方向に島があったかなあと首を捻っているのです。何もなければどこか大きな島まで乗せてもらうことにして旅を続けたところ、奇跡的にここまで来ることができました。彼女の言っていた島がここなのか、違ったのかはわかりませんが」
クラーラ:「やっぱりたどり着くべき人はたどり着くっていうのは本当なのね。よくぞいらっしゃいました。思う存分このホテルと島とをご堪能くださいね」
アルバートさんの漂流記、いかがでしたでしょうか。
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