こんにちは。ギャラリストのユメコです。
突然ですが、わたしたち獏にとって夢とは何だと思いますか?コアラにとってのユーカリ、ジャイアントパンダにとっての笹のように、それだけを食べて生きるよう宿命づけられた食物だとお思いでしょうか?
世界にはいろいろな獏がいますのでみんながそうかはわかりませんが、私の場合、「夢」だけを食べて生きているわけではありません。ホテルでは他の同僚たちと同じように普通の食べ物を食べています。「普通」といっても、当ホテルで提供される食事は、いわゆる普通の食べ物とはちょっと違うのですが、それはいずれまた明らかになるかと思います。
ではなぜ「夢」を食べるのかと申しますと、これもあくまでも私の場合ですが、とても美味しいからです。夢を食べて喜んでもらえることも多いのでそれはもちろん嬉しいのですが、これほど美味しくなければ食べようとは思わないでしょう。夢主にとっては悪夢でも、たいていは恐怖や焦燥が良い香辛料となっていて美味しいものです。
さて、私は自分自身もよく夢を見て、これがとても良い夢ばかり。自分で食べられたらさぞかしいいだろうと思うのですが、困ったことに自分の夢は食べられないのです。正確には、食べられるけれど、無味無臭でまったく味気なく感じられるのです。お茶やお酒、ジュースに入れてみたり、煮詰めてジャムに、お菓子に、と工夫してみましたが、夢を加えない味と全然変わらないのですからつまりません。でも、他の人にためしにこの夢入りのドリンクやジャム、お菓子をご馳走したところ、びっくりするほど良い香りがして美味しい、と大好評なのです。獏以外の舌には夢の味はわからないものらしいと知っていましたから私もびっくりしましたが、夢も加工すると変わるのですね。
そんなわけで、時々ホテルの茶室で夢入りのお茶やお菓子をお出ししております。お客様のご要望でお茶を点てることもありますし、主にスタッフを相手にごく気楽な、自由なお茶をふるまうこともあって、楽しい時間です。もちろん陶器のお茶道具はウオーさんに作ってもらいました。陶器を焼く時の釉薬に夢を一滴たらすと、とても良い色に仕上がるのだそうです。また香りもいいそうで、アルコールで抽出したものを香水として使ってくれている人もいます。
私は食いしん坊なので、もし自分の夢を自分で美味しく食べられたとしたら、単にそのまま食べてしまって、こんなにいろいろな加工をしてみようなどと思いつかなかったでしょう。世界が広がってよかったなあと思う一方、みなさんからこんなに好評な夢を味わえないのはちょっと残念だという気持ちもあり、複雑です。
夢をどうやって取り出したり煮詰めたりするのか気になりますか?それを言葉で説明するのは難しいですが、実演ならばできますので、ホテルにいらした際にはお声掛けくださいませ。
ユメコでした。
ユメコさんが初登場するお話「或る男(2)」はこちらです
また、このお話の中に登場する個展「渡邊智子の動物世界」は、BFUギャラリーで2016年6月に実際に開催していたものです。現在は別の企画展を開催中です、こちらもぜひご覧ください!
抹茶ラテや抹茶味のお菓子が大人気ですが、「抹茶」そのものも、夢が入っていなくてもとても美味しいものですよね。
「ホテル暴風雨の日々」次回をお楽しみに!