みなさま、こんにちは。お初にお目にかかります、海中客室係のフランシスコと申します。
以後お見知りおきを。
ホテル暴風雨には、おなじみ「海中階」がございますが、あれは陸上生物のお客様のための海中に面したお部屋。みなさまがご覧になる機会は少ないですが、水棲生物のための海中のお部屋もございます。私は主にそちらの担当です。この島は動いておりますので、海中庭園を常時整備するのもなかなかの仕事。しかし一番の仕事と言いますと、海中顧問、クラーラ様のお世話です。
私、体は小さいですがこう見えましても年を取っておりまして、こちらのホテルにご縁のできます前から、クラーラ様の従者をつとめております。大海にとどろく知恵と力、さまざまの不思議な術を操り、最大時の体長は5マイルを超えるという文字通りの女王ダコ、クラーラ様とは、たいへん頼りになる一方、たいへん世話の焼けるお方でもありまして……そうでした、クラーラ様に大事な用があるのでした。
フランシスコ:「クラーラ様、クラーラ様、大変です!」
クラーラ:「おはいり、フライデー」
フランシスコ:「はい、マスター。ではなくて、私の名前はフランシスコですので」
クラーラ:「そうだったっけ。何の用?」
フランシスコ:「近頃、夜中にそこの小島にお化けが出ると評判で、海中スタッフが皆怖がっているのです」
クラーラ:「小島って、この島と海中で繋がっているあの島?」
フランシスコ:「はあ。呪文を唱えるような奇妙な声を聞いた者が続出しております」
クラーラ:「わたくしだってもう1000年以上怪物呼ばわりされてるじゃないの。今更なんでお化けが怖いのよ」
フランシスコ:「いえ、私は怖くないのですが、お客様やスタッフが……」
クラーラ:「わかった、見に行くのが怖いのね」
フランシスコ:「そんなわけはありません、ただ私、クラーラ様のように陸上で目が効きませんし、水の外に長く出ていられないもので。なんでも、笛や太鼓の音色まで聞こえるとか」
クラーラ:「なんか面白そうね。しかたがないなあ、見に行ってみるわよ。じゃあ12時くらいになったら呼びに来てよ」
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フランシスコ:「クラーラ様、12時でございます」
クラーラ:「あらもうそんな時間?太郎冠者、では参るぞ」
フランシスコ:「心得ました〜! ええと、本当はフランシスコですからね」
さて、島ってこっちの方だったわよね。
本当だ、確かに変な音が聞こえてくし、誰かいるわね。……!!??……何あれ、呪いの人形かと思ったら、シムシムさんじゃないの!隣にいるワニの子も随分派手だわねえ。どこかで見たような……あ、前に会議室の隅に隠れてた子じゃないの?ドアマンのサオーくんまでいるようね、さてはボートをこぐために駆り出されたわね。何をやってるんだか、近づいてみるとしますか。
シムシム:「本当にこんなことをしていればボッフィーがくるのかね」
ハナ:「ええ、調べて統計を取ると、ボッフィーはこの島の近くが好きで、満月の夜、ついで半月の夜に目撃情報が多いんです。今日はちょうど下弦の月じゃないですか」
シムシム:「でもボッフィーは歌や踊りなんか好きなのかね」
ハナ:「わかりませんけれど、楽しそうにしていれば気になって出てくると思いませんか?それにしてもシェフ、その服かっこいいですね」
シムシム:「さすが、わかってくれるかね。せっかくのバカンスだからな、私のビーチファッションじゃよ。さっきサオーさんには変装と間違えらえたが」
サオー:「すみません、ファッションにうといもので区別がつかなくて。それよりハナさん、ボッフィーは静かなのが好きで恥ずかしがり屋だという話だから、あんまり騒ぐと来てくれないんじゃないかなあ」
ハナ:「は〜い、楽しそうな雰囲気をほんのり出すくらいにしておきます!」
シムシム:「でもさすがのボッフィーも、こんなに地味では来てくれないかもしれないぞ。サオーさんもどうじゃね、一緒に踊っては」
サオー:「いえいえ、私はここでお二人を応援しながら、ボッフィーが来ないか見ていますので」
…………なるほど、天の岩戸作戦でボッフィーをおびき寄せようというわけね。って、あれじゃあボッフィーどころか、ほんとにお化けが寄って来かねないっていうの!一難去ってまた一難、じゃなくて、相変わらずこのホテル、変な新人が続々と入ってきているみたいね。まあ面白くていいけど。
クラーラ:「というわけで定吉や」
フランシスコ:「はいご隠居様」
クラーラ:「誰が隠居よ」
フランシスコ:「それを言うなら私も小僧の定吉じゃなくてフランシスコなんですが」
クラーラ:「とにかく、お化けの正体はシムシムさんと服が派手なワニの娘さんみたいね」
フランシスコ:「客室係のハナさんですかね」
クラーラ:「あら、チヨさんのとこの。なるほどねえ。まあ、無害そうだし放っておけば?確かにちょっと破壊的な歌だけれどねえ。ボッフィー連れて来ればおさまると思うけれど、無理でしょうね、照れ屋さんだから」
フランシスコ:「無理ですし気の毒ですね」
以上のような次第でございまして、みなさま、満月や半月の夜にホテル暴風雨にお越しの際は、お気をつけくださいませ。フランシスコでした。
クラーラさんとハナさんの出会いのエピソードはこちらを
サオーさんとボッフィーの出会いについてはこちらをご覧ください!
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「ホテル暴風雨の日々」続きをお楽しみに!