10月の社長インタビューは、トライトーンの成冨ミヲリ社長です。デザイン、コンテンツ制作、文化教室とマルチに展開する会社を率いる成冨社長は、自らも多ジャンルに渡るマルチアーティスト。昨年出版の『絵はすぐに上手くならない』(彩流社)は派手な宣伝はゼロながら口コミで火がつき、たちまち版を重ね3万部を超えるベストセラーとなりました。まずはこの本の話からうかがいます。
「絵はすぐに上手くならない」
「もとは絵を学びたい人のために始めたメルマガなんです。
美大、芸大の勉強って、ほとんど言葉ではなく『見て学べ』。本格的だけれどすごく時間がかかって、仕事しながら学ぶ社会人には向きません。
私は社会人に絵を教えるようになってから、たくさんの質問を受けて答えるうちに、言語化することの大切さを知りました。
感覚だよりでなく、誰でもわかる明快な言葉で説明するということです。
学校の生徒さんに対してそれが有効だったから、学校に来られない人のためにも、と始めたのがメルマガで『デッサンのすすめ』というタイトルでした。やはりQ&Aの形で4年ほど続け、読者も増え、好評だったんです」
「それで出版の声がかかった?」
「いえ。読んだ出版社からムックの原稿依頼などはありましたが、書籍化は持込みです。
何社も断られたんですよ。とくに美術系出版社は全滅でした。言うことはみんな同じで『字の本はダメです』。絵が好きな人は文章メインの本は読まないと決めつけている。
おかしいですよね。絵が好きで文章も好きな人はいくらでもいます。私だってそうです」
「ドキッとするようなタイトルですが…」
「担当者がつけてくれました(笑)。でも続きがあるんですよ。すぐに上手くならないけれど、今にうまくなる。
この本は技術書ではなく、考え方の本です。
一つのポイントは、「絵の才能」とひとくくりにしてしまわないこと。本当はいくつもの能力を組合せて絵を描いているんです。だから自分に足りないのが何かを知り、そこを鍛えるのに必要なトレーニング法を知る。そういう本を作りたかったんです。
自分がどこで迷っているのかを知る、地図のような本ですね。
足りないものに自分で気づければ、学校に来られなくても絵が学べるじゃないですか」
「amazonのアート・芸術書ランキングで1位になりました。これほど売れると思っていらっしゃいましたか?」
「いいえまったく。出版社の担当者も同じだと思います。地味な本だし時間をかけて売っていこうと話していました。いまだに書評出たことないんですよ。口コミだけです。
最初のきっかけはツイッターでした。プロの漫画家さんが何人もとりあげてくれたんです。
『感覚に頼っていた部分がこれを読んだらクリアになった』、主にそういう内容でしたが、これを、その漫画家のファンの方々がどんどん拡散してくれて。ツイッターすごいなと思いました。
面白かった、というか嬉しかったのは、その中にいわゆる18禁の漫画家さんとそのファンの人たちがいたことです。ファンの人たちも18禁の作品を描いていて、でもそういう作品って人に見せづらいから学ぶ場がないんですよ。添削もしてもらえず悩んでいる人が多いのを知っていたから、届いて本当によかったです。
私、そっち系の人たち好きなんですよ(笑)。なにがなんでも描きたいというリビドーがすごく感じられるから。それが自分になかったものだけに魅かれる。応援したくなる。
もちろんエロでなくてもいいんです。ほめられたい!でもいい。とにかく描きたいエネルギー、強烈な気持ち、すごく大事です」
成冨社長のインタビュー、10月10日(月)更新の第2回へと続きます。お楽しみに!
成冨ミヲリ(なりとみみをり)
東京藝術大学美術学部工芸科卒 (染織専攻)。アートディレクター・プランナー・実業家。
ゲーム会社、コンテンツ制作会社を経て、有限会社トライトーンを設立。富士急ハイランドや商業施設の企画デザイン、集英社のCMやドキュメンタリーTV番組におけるCG制作、アニメDVDの監督など幅広く活動。その他、デッサン技法書の執筆、音楽・小説などの制作もしている。「絵はすぐに上手くならない」(彩流社)を2015年に上梓。3万部を超えるヒットとなる。 トライトーン ホームページ