しまや出版 小早川真樹社長インタビュー第3回

しまや出版は同人誌印刷業界の老舗です。しかし競争の激しい業界では老舗といえども安穏としてはいられません。小早川社長がこの10年間どのような方針を立て実行してきたかお聞きしました。


業界の常識を破り「初心者にも優しく」
しまや出版 小早川真樹社長 特殊紙見本

小早川社長と特殊紙見本

まったく知らない業界に来て何から始められましたか?

「最初に感じたのは初心者に優しくないな、ということでした。初心者とは初めて同人誌を作ろうとする人のことです。
パンフレットもホームページも同人誌に慣れた人向けで、ぼく自身読んでも意味がわからなかったんですよ。だからまず、ぼくにわかるような価格表、入稿方法にすることを目指しました。
初めての方でもベテランさんと同じように気軽に入稿できるようにしたい。掲げたキャッチフレーズが『初めての方“にも”優しい同人誌専門印刷所』です。

当時は初心者に力を入れている印刷所はありませんでした。ある社長さんに言われました。『手間ばかりかかって儲からないことなんでやるの』と。
ベテランさんは全部わかっているから入稿もスムーズですが、初めての方は一つ一つご相談に乗りながら進めることになります。ベテランさんには何千部作る方もいらっしゃいますが、初めての方はもっとずっと少ない部数になります。つまりその社長さんの言うとおりなんです。
でも『ぼくも初心者だからいいんですよ』と言って続けました。どこもやっていなかったからこそやりたかったんです。

6、7年前しまねぇ&まやちゃん はじめての同人誌というサイトを作りました。マンガで同人誌の作り方を教えるサイトです。ゼロからスタートの方にも同人誌の作り方と即売会の出展の仕方がわかるように、2年くらいかけて作りこみました。今もたくさんのアクセスがあって財産になっています。

初心者向けをうたう会社は他にも出てきましたが、うちほど力を入れている会社は今も他にないと思っています。おかげさまで、同人誌初心者にはどこの印刷会社がいい?と聞けば必ずうちの名前が出るくらいにできました。
初めての方をサポートすることで、業界全体の土台作りに貢献しているという自負もあります」

しまや出版 社猫 タンタン副主任 しまや出版 社猫 ゆき

初心者にも優しいしまや出版には癒し課がある。課員はタンタン(左)とゆき(右)

「ぼくがしまや出版に来て約10年ですが、結果的に世代交代のタイミングとしては良かったと思うんです。ちょうどネット文化主流になっていく時代だったからです。
良くも悪くも職人気質の地味なしまや出版から、今のお客さまにアピールできるようカスタマイズすることが必要で、ぼくはたまたま以前の職場で企画や広告を経験してきたからそれができた。それで生き延びられた、というところもあるのかなと感じます。

同業の老舗でも何社か、この3年から5年くらいで廃業したところがあるんですよ。
コミケに直接搬入するにはあらかじめ登録しなければいけないのですが、約100社の登録業者があり、競争は熾烈です。パイが決まっている中でのシェア争いですから、各社差別化の努力をしています。
今の同人誌印刷業界は群雄割拠と言っていいと思います」

小早川社長インタビューは27日(月)更新の第4回へと続きます。どうぞお楽しみに!


小早川真樹(こはやかわ まさき)
千葉県安房郡鋸南町出身。大学卒業後、大手英会話学校にて企画・広告業務を経験。その後マーケティング業界、無線通信機業界を経験。2007年1月に入籍すると4月に義父が急逝。同年9月より義父が営んでいた印刷・製本会社の しまや出版 に入社。全く未経験で知識が皆無のオタク業界、印刷・製本業務に苦労するも、未経験を逆手に取った戦略を実施し、廃業の危機を救う。現在は当社代表取締役として、個人の印刷物を「宝物」と位置づけ、多くのファンを獲得している。


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