かつてブッダが祇園精舎で暮らしていた頃、たまたまヴァイシャリー市に用事で来ていた周辺国ヴィシュカンダル在住のシーナ(斯那)という女性が説教を耳にして感銘を受け、教えに帰依すると同時に修行僧たちを援助することを誓いました。
そしてその後、ブッダたちが彼女の招きに応じてヴィシュカンダルに研修旅行に来たときのことです。
シーナは、ブッダの弟子のひとりが体調を崩して寝込んだとの話を聞いて、心配して見舞いに行きました。
「何か食べたいものはありませんか?」と彼女がたずねたところ、その弟子は医者に言われたとおり「新鮮な生肉のスープが効くらしい」と答えました。
ところが折悪しくも、その日は月に一度の食肉市場の定休日にあたり、どこを探し回っても新鮮な生肉など手に入らなかったのです。
思いつめた彼女はついに、かみそりで自分の内腿の肉をそぎ取ると、それをスープにして例の弟子に食べさせてあげました。
おかげで、弟子の病気は一発で解消したのですが、今度は彼女が寝込んでしまい、不審に思った彼女の夫が侍女たちにヒアリングしたために事情が露見。激怒した夫は「ブッダの一味は人肉を喰らうぞ!」と言いふらしてまわりはじめます。
困惑したブッダは、弟子に尋ねました。
ブッダ:「オイおまえ、今日は何か食べたか?」
弟子:「はい、滋味豊富な肉のスープを振舞っていただきました。」
ブッダ:「それは生肉だったか? それとも乾肉だったか?」
弟子:「え? ・・・生肉でしたけど?」
ブッダ:「・・・あのな、今日は市場の定休日だ。
そしてこの国の暑さでは、肉を生のままで翌日まで保存することは不可能だ。
おまえ、食べる前にちゃんと「この肉はいったいどんな肉ですか?」と尋ねたか?」
弟子:「・・・いいえ、病気で苦しんでいたのでそれどころではありませんでした。」
ブッダ:「この大バカヤロウ!
常々オレは「人様にものを食べさせてもらうにあたっては、口に入れる前に必ずその食べ物の素性を確認するように」と注意していただろう!?
そして「その人の説明も鵜呑みにするのではなくて、ちゃんと信用できるかどうか色々な角度から検証しろ」とも教えたハズだ!
いいか、おまえだけでなく、みんなも耳の穴をかっぽじってよく聞け。
「見た目が怪しい」「くれた人の説明が怪しい」「全体として何やら胡散臭い」、このいずれかに当てはまる場合は、決して食べるな!」
で、その後ブッダはミラクルパワーで寝込んでいるシーナの傷を元通りに直してやると同時に、彼女を責めることなく、むしろその厚意を褒め称え、女性であるにもかかわらず、当時の修行僧の最高位である「阿羅漢」の称号を与えたということです。
<食の安全について 完>