足利直義:いや、そうはおっしゃいますが、そもそも「六波羅蜜」と呼ばれている立派な人になるための六原則の中でもっとも重要なのは「般若波羅蜜」、つまり「智慧」です。
それがなければ、残りの五つも成立しないからなのですが、和尚はなぜ先ほどから「智慧」をそんなにも目の敵にされるのでしょうか?
夢窓国師:「般若」とはサンスクリットで「智慧」を意味する言葉じゃ。
ただひとくちに「智慧」と言っても、仏教においては「真智」「妄智」「権智」「実智」など、様々な種類がある。
世の中の連中は、勉強してアホさ加減を改善することが「智慧」だと思っているようじゃが、円覚経には「智慧とアホはどちらも等しく『般若』である」と書かれておる。
これはつまり、「アホが治った状態を智慧というのではない。まず、アホと智慧が違うものだと考えることが『第一の妄想』である。そして、『アホ』を直して『智慧』を得たいと考えることが『第二の妄想』である。『般若』は中国語で『覚』とも『道』とも訳されるが、『道』は『知』にも『知ではないもの』にも属さない。『知』があるなどと思うのはカンチガイに過ぎないし、『知ではないもの』は表現してみせることができない」ということなのじゃ。
禅宗なんかの坊主の中には「自分が生まれてきた理由を知ること」が「道」だと考えているヤツがおるが、それでは「道」は「知」だということになるのではないか?
逆に、「何も考えない」のが「道」だと考えているヤツもおるが、それでは「道」は「知ではないもの」ということになるのではないか?
・・・などということを、一切の予断を持たずにひたすら考え続けたならば、いつの日かきっと、誰もが生まれつき持っているハズの「真実の智慧」というものに気づき、「ああ、『道』というものは『アホ』とも『智慧』とも離れたところにあったのだなぁ・・・」と思い知る時がくることじゃろう。
そしてそうなってみれば、それまで考えてきた「智慧」や「アホ」とはなんのことはない、どちらも自分自身のことであったということが理解できるハズじゃ。
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