十身調御の仏 2/4話(第九十九則「粛宗十身調御」)

ある時、孚(ふ)上座が揚州の光孝寺で涅槃経の講義をしていると、雪に降りこめられた行脚中の僧が一人、講義を聴きにやってきました。

孚上座が「法身」に関する細かい解説を始めたところ、その僧が失笑するのが目に入ったので、講義終了後にその僧を呼びつけると言いました。

孚:「私は生まれつき頭が悪く、説明が下手なのは自覚しています。さっき貴方は私の講義を鼻で笑いやがりましたが、何が可笑しかったのかご教示いただけませんでしょうか?」
僧:「いやいや、失礼しました。聞かれなければ何も言うまいと思っていましたが、聞かれたからにはお答えしないわけにはいきませんね。和尚さん、貴方、実は「法身」がどんなものであるかわかっておられないでしょう?」

孚:「先ほど事細かに解説させていただいた内容の、どこがダメだと仰るのでしょうか?」
僧:「和尚さん、もう一度その解説を聞かせてくださいな」

孚:「『法身』は虚空のようなものであって、時間的には現在・過去・未来の全時点にわたり、空間的には前後左右上下等の全方角にわたります。光も影も包み込んで、きっかけがあれば反応しないということがないのです」
僧:「仰っている内容が間違っているというのではないのです。ただ、貴方の解説はあまりにも表面的過ぎます。ずばり「法身」とは何であるか、わかっているとはとても思えません」

孚:「……では、いったいどうしたらよいのでしょうか?」
僧:「講義はしばらくお休みにして、十日ほど一人静かに部屋の中で座って考えてみることですね。そうすれば、きっとおわかりになりますよ。」

孚上座は言われた通りに夜通し自室で座り続けていましたが、午前四時を報せる太鼓と笛の音を聞いてハタと大悟し、転げるように僧が泊っている部屋に走っていくと扉を連打して僧を叩き起こしました。

僧:「こんな時間にいったいどなたでしょうか?」
孚:「私です! 孚です!」

僧:「私は貴方に仏の教えをしっかりと理解した上で解説するようにと伝えたつもりなのですが、なんでまた深夜に酔っぱらって道端で居眠りするようなマネをなさるのですか?」
孚:「これまで私は講義の中で生みの親の顔をいじくりまわすようなことをしてきましたが、もう二度とそんなことはしません!」

ほらね、デキる男は変わり身も早いのです。(笑)

―――――つづく


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