足利直義:なるほど・・・・・・
それではついでにお聞きしますが、「初心者は必ず公案から入るべし」という師匠と「公案なんかどうでもよい」という師匠がいます。
これはどちらが正しいのでしょうか?
夢窓国師:それも「疑え」「疑うな」の話と同じことじゃよ。
師匠が修行者の状態を見て「公案を与えた方が伸びる」と判断したら与えるし、「かえって害がある」と判断したら取り上げて捨てさせるまでのことじゃ。
正しいか正しくないか、などと一概には言えんよ。
ある師匠は言ったよ。「オマエと公案は別のものか?」とな。
もし公案で示された内容を「他人ごと」ではなく「自分ごと」として受け止めることができたなら、それはもはや人から与えられたものではなくなる。
その境地に到ったならば、「公案は必要か? 不必要か?」などという疑問が起こるハズもない。
そうは言っても、まだそんな境地になれない人のために公案を与えたり与えなかったりするということは教導手法として充分あり得ることじゃ。
外野が云々すべきことではない。
もし、何もわかっていないヤツが昔の師匠たちの言行録を誤解して、それを後の修行者に伝えるようなことがあったなら、それは恐るべき過ちじゃ。
昔の師匠が「ありもしないものを『ある』と言い張って人を惑わせる」と叱ったのは、まさにこのことなのじゃ。
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