別訳【夢中問答集】第七十一問 全てのものごとの本質は、みせかけ? それとも実在?

足利直義:なるほど……

話は変わりますが、お経には「あらゆるものごとの本質は、みせかけだけのマボロシなのだ!」と書かれたものもあれば、「あらゆるものごとの本質は、古今を通じて実在する真実なのだ!」と書かれたものもあります。

こりゃまた、どっちが本当なのでしょうか?

夢窓国師:本当のことを言えば、「あらゆるものごとの本質」に「みせかけ」とか「実在」とかの区別はない。

そうは言っても世間一般の人たちはこれを「実在」すると言い張るし、達観した人たちは「みせかけ」だけだと考えている。

そして究極の悟りをひらいた人にとっては、そのどちらでもないのじゃ。
「みせかけ」とか「実在」とかの議論は、結局どちらも方便に過ぎない。

楞伽経には次のような外道とブッダの問答が収録されておる。

外道:「あらゆるものごとの本質はみせかけだけのマボロシで、常に移りゆくのでしょうか?」
ブッダ:「その類いの質問はもう数えきれないほど受けてきたが、私は議論のための議論に答えるつもりはない」

外道:「ということは、あらゆるものごとの本質は、実在・不変なのですね?」
ブッダ:「だから議論のための議論に答えるつもりはないといったろう!」

維摩経には「『みせかけ』とか『実在』とかにとらわれた状態で『あらゆるものごとの本質』について語ってはならない」と書かれておる。

そういう悟りの低い状態で語られることは全て「議論のための議論」に堕ちてしまうからじゃ。

「悟れていない人が正論を述べると邪論となるが、悟った人が邪論を述べると正論となる」というのは、つまりこのことじゃな。


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