足利直義:そういえばお釈迦様の説法には二つの種類があると聞いたことがあります。
ひとつはお釈迦様が相手のレベルに応じた話し方をする「随他意語」というもので、もうひとつはお釈迦様自身の考えをそのまま述べる「随自意語」というものだったと思うのですが、和尚が仰るところの「召使いへの指示」は「随他意語」に該当するのではないですかね?
夢窓国師:禅の立場としては、「随他意語」・「随自意語」という区別自体が「召使いへの指示」なのじゃ。
だから今日「随自意語だ」と断定した仏説を、翌日には翻して「随他意語だ」と言うことなどは普通にある。
この言葉だけではなく「浅い・深い」「妄想・真実」といった概念についても同様じゃ。
昔の師匠は言ったよ。
「他の宗派では『一メートル』といえば『一メートル』のことだが、我ら禅宗における『一メートル』は必ずしも『一メートル』ではないのじゃ!」、とな。
お釈迦様だって「自分は禅宗だ」とか他宗派だとかに言及したことはない。
「この説は禅でこれはそれ以外」などと自説を分類したこともない。
お釈迦様が悟った内容は彼にしかわからないものなのであって、他者が分類することなどできるハズもない。
ただ、それが場面や状況によって違った姿に見えるだけのことなのじゃ。
維摩経には「あなたはいつも同じことしか言いませんが、世界中の人々はみな、それを聞いてそれぞれにふさわしい多彩な効果をゲットします。あなたが言っていることはひとつしかありませんが、それを聞いた人たちは、ビビったり喜んだり、嫌がったり疑ったりと、実に様々な反応をするのです」と書かれておる。
お釈迦様が存命だった時代は、それぞれの受け止めが異なってはいたものの「禅とそれ以外」などと分類して扱うことはなかった。
顕教だとか密教だとか、禅の五宗派だとか、そういった分類は全てお釈迦様がお亡くなりになってから後のことじゃ。

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