足利直義:……話を変えさせてください。
「昔のことはいざ知らず、今どきの人にとって大乗仏教の修行は難し過ぎる。さしあたり念仏を唱えてさえおれば極楽浄土に生まれ変われるので、そこで改めて大乗の修行に取り組めばよい」、または「念仏こそが最高の仏教修行だ。ただ仏の名前さえ唱えておればどんな極悪人やバカものであっても極楽に行けて悟りが開けるというのだから。こんなにラクな方法があるというのにわざわざ小難しい修行に取り組むヤツの気が知れないね」、などと主に浄土宗の信者の人たちが言っているのですが、これについて和尚はどう思われますか?
夢窓国師:念仏も大乗もお釈迦様の教えであることに変わりはない。そこに何の優劣があるものか!
「末世に生まれた人は大乗修行ではなく念仏修行だけしておけ」などと書かれたお経は存在しない!
……とは言っても、能力や性格が人それぞれに異なるのは事実なので、どうしても大乗修行に取り組む気が起きずに念仏に走ることをワシは否定せん。
念仏の法門は、まさしくそういう人たちのために用意されたものだからじゃ。
大乗の修行者の中にも「大乗修行をしようとしても前世からの悪い因縁によって全然集中できずに一生を棒に振るようなことになれば、次に生まれ変わった先ではさらに悪い状態になるという悪のスパイラルに陥ってしまう。そんなことになるぐらいだったら、他力本願に期待して西の方を拝んでおこう」などと言いだすヤツがおるが、これは大乗の意味がまるでわかっておらんと言わざるを得ない。
環境の悪さを嘆いて極楽浄土を願ったり、自力と他力を区別したり、修行の難易度をあれこれ取り沙汰したりするようなことは、大乗とはまるで関係ないことと考えた方がよい。
本当に大乗の真意を理解できておるならば、なかなか悟りが開けないからといって修行を中断するようなことにはならないハズじゃ。
まして、環境の良し悪しを論じたり自力・他力を区別したりなどするわけがない。
そういったものは全て、妄想・気の迷いだからじゃ。

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