究極の真実を知った上で人に伝えるためには、タイミングを見極めて相手に応じた適切な対応ができるようでなければいけません。
常に目は泳ぎ、わからないことがあれば反射的に質問し、知っていることがあれば反射的に答えるというのでは全くお話になりません。
このエピソードに登場する僧はせっかく雪峰和尚が身体を張って教えてくれたというのにピンとこず、巌頭和尚が出してくれたヒントに反応することもできませんでした。
まぁ、この僧に限らず大概の人がこのエピソードを単にエキセントリックな坊さんのシュールな言動に過ぎないと誤解してしまっている状況なので無理もないことではありますが・・・
雪峰和尚は究極の真実を悟るため、あちこちの寺を渡り歩いた人ですが、雪山で遭難しかかって兄弟子の巌頭和尚と二人で小屋に閉じ込められた時に巌頭和尚に一喝されて、ようやく究極の真実の正体に気づきました。
巌頭和尚はといえば、その後に廃仏令が出されたために湖のほとりで渡守に身をやつしました。
そして、客がやってくると葦の茂みから小舟を漕ぎ出し、「さて、オマエさんはいったいどこに行こうというのだね?」と尋ねたそうです。
さて、このエピソードに登場した僧は決して素人ではなく、それなりに修行を積んだ人でした。
いきなり門の中から飛び出してきて「何だこれは!?」と叫ぶようなシュールな師匠に対して「何だこれは!?」と間髪入れずにツッコミを入れるのは並大抵のことではできません。
(普通はあれこれと答えてしまうところです)
ここで雪峰和尚が首をうなだれて帰ってしまったことに対して「返す言葉もなくスゴスゴ引き下がったのだ」という人がいますが、そうではなくてむしろ雪峰和尚は強烈な一撃をツッコんできた僧に対して与えているのです。(僧には伝わらなかったようですが・・・)
―――――つづく
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