さて、先にも書いたようにこの僧は雪峰和尚のシュールぶりに呆れて仕方なく兄弟子の巌頭和尚のところまで訪ねていったわけですが、巌頭和尚はまず「どこから来たのか?」と問いました。
この問に込められた真意を見過ごさずに受け答えできるようであれば雪峰和尚のシュールな行動の意味などたちどころに理解できるハズなのですが、この僧は言葉通りに受け取って「山の南側から来ました。」などと答えてしまいました。
巌頭和尚はさらに「雪峰のところには行ったか?」と尋ねましたが、この僧はまたもや質問に込められた意図に気づかずに「行きました。」などと答えてしまいました。
巌頭和尚は続けて「雪峰は何と言っていたか?」と尋ね、僧は状況を説明した上で「雪峰和尚は何も言わずにうなだれて庵に帰った」と答えました。
ここまでの時点で巌頭和尚はこの僧の腹の中や頭の中を土足で何往復もしているというのに、当の本人は全く気づかないという有様・・・
巌頭和尚は「強いものを助け、弱いものは助けない」芸風のお方でしたので、ここで「ヤツにとどめの一句を教えてやればよかった」とのみ言いました。
この僧は状況が全く飲み込めていませんでしたので、遂に「雪峰和尚は意味不明な人だった」という理解のまま終わってしまったというわけです。
で、巌頭和尚のところを離れるにあたり、この僧が「以前話していた「とどめの一句」とは何か?」と改めて教えを請うたのに対して巌頭和尚は「なぜもっと早く尋ねない?」と言い、「同じ枝の上で咲いたが、散る時は別々だ」と言いました。
巌頭和尚のこのひと言こそ、まさしく”全集中”の教えなのですが、読者の皆さまは当然その真意をおわかりですよね?
―――――つづく
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