かつて雪峰和尚は徳山和尚のところで炊事係を務めていたのですが、ある日のこと、昼食の準備に思ったよりも手間取ってしまって定刻を過ぎても合図の鐘を鳴らせずにいると、徳山和尚がドンブリを持って食堂にやってくるのが見えました。
雪峰和尚が「師匠! まだ鐘も鳴らず太鼓の音もしていないというのにドンブリなんか持って何処へ行こうというのですか!?」とツッコミを入れると、徳山和尚は何も言わずに首をうなだれて自室に帰ってしまいました。
雪峰和尚がその話を兄弟子の巌頭和尚に伝えたところ、巌頭和尚は「なんと! 徳山師匠ともあろうお方が、まだ「とどめの一句」を理解されていないとは・・・」と言ったそうです。
その話を耳にした徳山和尚は、さっそく人をやって巌頭和尚を呼びつけて叱りました。
「お前さん、この年寄りをアホだと思ってるじゃろ!?」
巌頭和尚は徳山和尚に近寄ると、一言耳打ちしました。
そして翌日の徳山和尚のトーク(説法)がグレードアップしているのを確認した巌頭和尚は、教室を出たところで手を打って大爆笑しながら「こいつぁ素敵だ! これでもう師匠は向かうところ敵なしだぜ!! ・・・ただ、もって三年かな。」と言ったそうです。
この時、若き日の雪峰和尚は徳山和尚が何も反論しなかったのを見て「師匠に勝った!」と思ったことでしょうが、実際は気づかない間に徳山和尚に腹の中や頭の中を土足で何往復もされているのです。
この時「居留守」に入られた経験があるので、後に雪峰和尚も相手に気づかれずに入り込むことができたというわけですね。
とはいえ、ここで「さすがは兄弟子の巌頭和尚! 雪峰和尚よりものがわかっていらっしゃる!!」などと思うのは間違いです。
―――――つづく
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