他人の批判と自他の区別をやめてしまったとしても、それだけではまだ足りない。
両親が生まれる前まで遡って「自分」を見つけられるのでなければ、真実の修行者とはいえないのじゃ。
よくよく考えてみるがいい。
そもそもオマエはいったい何ものなのだ?
かつて禅宗第六代伝承者の慧能和尚は参禅しにきた南岳和尚に向かって「そうやって来たオマエはいったい何ものだ?」と尋ねたそうじゃ。
その時の南岳和尚はどう答えたらよいのかわからず、絶句して退去したのじゃが、その後八年してハッと気づくところがあった。
そして再び慧能和尚のもとを訪れて「それは言葉で説明できるものではありません(説似一物即不中)」と答え、ようやく慧能和尚のOKをもらったという。
最初に尋ねられたときに即答できなかったのはアレだが、それから考え続けて結論を出せたというのはたいしたものじゃ。
逆に言えば、このぐらいでなければたとえ千回生まれ変わったとしても究極の真実はつかめないということじゃ。
今どきの連中は、「オマエは何ものだ?」と訪ねられようものなら日頃ふくらますだけふくらました妄想を全開にしてしまって、「オレはオレ様以外の何ものでもない!!」などと開き直ってみたり、「そういうおまえは何ものなんだ!?」と逆質問してみたり、あるいは眉をつりあげて目玉をギョロつかせ、拳を突き上げてみたりとやりたい放題じゃ。
また南岳和尚の「説似一物即不中」をすっかり誤解してしまって、「オレより上には何もない! オレより下にもなにもない!!」などと言いだすヤツもおるな。
「つまらんことを聞くな!」とばかりに頭ごなしに大声で一喝してくるヤツもおれば、それすらも省略してサッと席を立って帰ってしまうヤツもおる。
・・・そんなことでは五十六億七千万年後に弥勒菩薩がするまで待っても悟ることはできないのじゃがな。
☆ ☆ ☆ ☆
★別訳【夢中問答集】(上)新発売!
これまでに連載した第1問から第23問までを収録。(全三巻を予定)
エピソードごとにフルカラーの挿絵(AIイラスト)が入っています。
別訳【碧巌録】シリーズ完結!
「宗門第一の書」と称される禅宗の語録・公案集である「碧巌録」の世界を直接体験できるよう平易な現代語を使い大胆に構成を組み替えた初心者必読の超訳版がついに完結!
全100話。公案集はナゾナゾ集ですので、どこから読んでもOKです!
★ペーパーバック版『別訳【碧巌録】(全3巻)』