足利直義:・・・和尚。
先程から貴方は「妄想はダメだ! ダメだ!!」と繰り返し強調されていますが、そもそも「妄想」って何でしたっけ?
夢窓国師:なんじゃ、そんなところから説明せにゃならんのかいな・・・
いいか、よく聴きなさい。
「天国と地獄は全然違うものだよね!」とか、「迷いと悟りが同じもののハズがないよ! そこら辺のボンクラと賢い人を比べたら全然違うわけだし」などと考える。
これがすなわち「妄想」じゃ。
「いやいや、ボンクラも賢い人も平等ですとも!私は差別しませんよ」とか、「世の中の全ては尊いのです。キレイとかキタナイとか、私はそんなことは気にしません!」などと考える。
これもまた、同じぐらい「妄想」じゃ。
「ホトケの教えには、その観点やレベルに応じて色々な種類があるのです。「大乗」「小乗」の別は言うまでもなく、「権教」と「実教」、「顕教」と「密教」、「禅宗」と「天台宗」など、実に色々です」などと考える。
なんとまぁ、恐ろしいまでの「妄想」ぶりじゃ。
「喝っ! ホトケの教えに、そんなチマチマした区分などあるものか! 真実はひとつ! 全ての教えは平等なのだ! どうしてそこに優劣などつけられようか!」などと考える。
「妄想」もここまでくると逆にたいしたモンじゃ。
「真実への道というものは、何だかよくわからないけど、きっと今の日常生活とは離れた、どこか遠いところにあるのに違いない」などと考える。
よくありがちな「妄想」じゃ。
「いやいや、そうではないんだよ。行住坐臥、見聞覚知、つまりこの何でもない日常生活こそが、真実への道に他ならないのさ」などと考える。
これまた、よくありがちな「妄想」じゃ。
「ああアリガタイことだなぁ。ホトケさまの教えは永遠に不滅だ。つまり、あなたも私も、万物も、また永遠に不滅なのだ」などと考える。
これはボンクラ野郎にありがちな「妄想」じゃ。
「いえいえ、そうではないのです。御覧なさい、全ては時とともに移ろいゆくのです。貴方は「諸行無常」という言葉をご存じないのですか?」などと考える。
これは自己救済だけを目的とする坊主にありがちな「妄想」じゃ。
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