別訳【夢中問答集】第二十八問 妄想が本当の智慧を邪魔している

足利直義:いやいや・・・ そんなこと言ったら勉強も修行もしない連中が続出してしまいそうですが、それでいいんですかね?

夢窓国師:確かに、「テキストで勉強すればよいというものでもない」と聞いたら、「じゃ、やーめた!」となるヤツはおるじゃろうな。

で、そういう考え方はただの妄想であるので、結局グダグダのまま終わることになる。

華厳経に、「いやぁ、まったく困ったもんだ。全ての人は皆、仏と同じ智慧を持って生まれてきているというのに、妄想にとらわれてしまってそれに気づくことができないとは・・・」と書いてあるのは、つまりこのことじゃな。

例えば、身体能力も芸術的才能もたっぷりと持って生まれた人がいて、その人が重い病気にかかってしまい、手足に力も入らなければ、思考をうまく表現することもできなくなってしまったとする。

で、病院で寝ながらテレビを見ていると、アスリートやアーティストが活躍している様が映り、なんだか羨ましくも悔しく思えてきて、まだ病気が治っていないのに無理なリハビリにチャレンジして、結局無理がたたって死んでしまったりする。

これはつまり、「自分には生まれ持った能力や才能があるので、病気が治ればちゃんと元のように活躍できる」ということが信じきれなかったが故の悲劇じゃ。

まず、病気を治すことにこそ専念すべきであったのにな。

学問にもこれと同じことが言える。

「人は皆、仏と同等の智慧を持っている」ということを信じることができず、妄想に駆られて余計なことばかりするもんだから、それにジャマされて折角の「仏の智慧」が全然使えない。
そうとも知らず、自分より優れた人を見ればたちまち負けず嫌いを発揮して、脳内の山盛りの妄想をますます膨らましながら手当たり次第にテキストを読みまくり、先師の名言を詰め込みまくり、「ミラクルパワー、カモン!!」などと願っておる。

これこそ、「妄想のかたまり」というヤツじゃ。

こんなことでは、いつまでたっても「本当の智慧」など現れるわけがないよなぁ・・・」


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