足利直義:その理屈はわからなくもないですが、実際にムカつくヤツを見ればムカつくし、色っぽいネエちゃんを見かけたら声をかけてみたくなるのが人情というものです。
そんな時、「いやいやいや! 色即是空!」とばかりに、必死に煩悩を打ち消そうとするのもダメなのですか?
夢窓国師:いやいや、なんというかな・・・
「全部いっぺんに捨てちまえ」と言っても、外道・二乗の連中のように「煩悩は悪だから消せ!」という意味で言っておるのではない。そんなことをしたところで煩悩は消せやしない。血で血を洗うようなものじゃ。
眼球の硝子体の一部に不均一な部分がある人は、何もないところを見ても目の前にチラチラと何やら飛び交うのが見えたりする。
で、それを嫌がって手で払いのけようとする人や、その現象が気に入って遊んでいる人とかがいるのじゃが、時間が経って硝子体の不均一が解消すればそういった現象はなくなってしまう。
なにもことさらに嫌ったり喜んだりするほどのものでもなかったというわけじゃ。
人生もそれと同じことで、持って生まれた眼が世知で曇ってしまっているから本来決まった形がないハズのものの上に「仏法」だとか「世法」だとか「善」だとか「悪」だとかがチラついてしまう。
この理屈をしっかりと肝に銘じ、「鏡にものが映っている」ぐらいに思って次々と湧きおこる煩悩に振り回されないようにするというのが、大乗仏教における修行の要点じゃ。
我らの大先輩は言ったよ。
「善だとか悪だとか、一切考える必要なし!」、また「何も特別な対策は必要ない。ただ放っておけばよいのだ!」、とな。
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