足利直義:いや、だからその辺りがよくわからないのですよ!
禅宗は「両親が生まれる前」だとか「仏という概念が発生する前」だとかを有難がるあまりに、他宗派で実施されている基本的な修行を軽視しているように見えます。
なのに禅宗を学ぶ人たちは皆、揃いも揃って座禅に打ち込みますし、指導者の方もそれに対してあれこれと注文をつけたりしています。
こりゃまたいったい、どういうわけなのでしょうか?
夢窓国師:ううむ、なかなか手ごわいツッコミじゃな・・・(苦笑)
例えば詩や歌を詠むにあたって一番大事なのは「テーマ」じゃ。
「月」がテーマなのに「花」のことばかり詠んでもおかしなことになるというのはわかるよな?
禅宗もまたそれと同じで、なによりも「本分(ほんぶん)」を大事にしておる。
この「本分」というのは先に説明した「無上菩提」と同様に、そこら辺のボンクラにはなくて、聖人だから十人分持っているという類いのものではない。
人間であれば誰でも必ず備わっているものじゃ。
この「本分」をテーマとして掲げておきながら、「私には迷いがある。だから修行して悟りをひらかなければ!」などというのは、やはり間違っているのじゃ。
ただし、それを理屈ではわかっておりながら「人間であれば誰でも必ず備わっている」ということが心の底から信じきれずに「迷いと悟り」あるいは「聖と凡」に対する誤った区別を振り払うために座禅に打ち込んだり高名な指導者のところに質問に行ったりすることはあるじゃろう。
そんなヤツでも、あの世で楽をするために念仏を唱えたり、神通力を得るために呪文を唱えたり、知識欲を満足させるために経典研究に没頭したりするようなヤツに比べたら、「本分」を忘れない修行者であると言える。
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