足利直義:そうそう、その公案についてもお聞きしたいことがあります。
公案というのは昔の偉い人のシュールな言行録のことだと理解しているのですが、これを宿題としてもらった場合、その内容について「疑え!」という人と「疑うな!」という人がいます。
これはいったい、どちらが正しいのでしょうか?
夢窓国師:禅の指導者たちは、その教導において予定調和を徹底的に排除しようとする。
これを石を撃ちつけた時に出る火花に例えて「撃石火」と呼び、突然の稲光に例えて「閃電光」と呼ぶ。
だからある時は「疑え!」と言ったにもかかわらず、別の時は「疑うな!」と言ったりするのじゃ。
それもこれも修行者の状態を一瞬で見抜いて最も効果的だと思う態度を取ろうとするからであって、予め決められたシナリオなどない。
このやり方は「覿面提示(てきめんていじ)=いきなり顔の前に突きつける)」と呼ばれる。このスピーディかつライブ感全開の手法に対して、後から論評しても何の意味もない。
ちゃんともののわかった禅師であれば、「疑え!」と言おうが「疑うな!」と言おうが、どちらも正しい。
逆に何もわかっていないヤツが言うのであれば、「疑え!」と言おうが「疑うな!」と言おうが、どちらも間違っているのじゃ!
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