別訳【夢中問答集】第六十問 悟りを得ればよい死に方ができる? 2/3話

また、こんな話もある。

昔、お釈迦様が散歩していたところ、何やら人だかりがしているのが目に入った。

覗いてみれば道端の草むらに品の良さげな捨て子がおり、皆、それを珍しげに見ていたのじゃが、幾人かが話しかけてみたら、なんとおよそ歳には似つかわしくないしっかりとした受け答えであったとか。

面白半分で難しい議論をふってみると、こともなげにスラスラと回答し、皆の驚愕は頂点に達した。

それを見ていたお釈迦様、人垣をかきわけて捨て子のところまでいくと、手を握りしめてこう言った。

「こら、オマエ! あの時のことを思い出せ! なぜベストを尽くさないのだ!?」

次の瞬間、その捨て子は人々の頭上はるかに飛び上がり、空中に静止すると同時に全身から膨大な光を放ったのじゃ。

その光は一瞬にして全世界を包み込み、人間たちはおろか、神々や龍人族などの異類に至るまで、ことごとくその恩恵に浴したとか。

そしてお釈迦様は、その子に「ミラクルフラッシュ・ボーイ(不思議な光を放つ少年)」というあだ名をつけると、こう言った。

「今から四千億年ほど前、ビバシという名の仏がいた。

彼には二人の弟子がおり、一人は『さっぱり』、もう一人は『たっぷり』と呼ばれていた。

さっぱりくんはあまり欲のない性格で、ひとりでいるのが好きだった。

一方、たっぷりくんは繁華街に出入りしたり流行を追ったりするのが大好きだった。

で、そのことについてさっぱりくんがたっぷりくんに説教したところ、たっぷりくんは気を悪くして、こう言って罵った。

『なんだと、こら!? オマエみたいな捨て子にそんなことを言われる筋合いはないね!』

さぁ、それからだ。

たっぷりくんが生まれ変わるたびに捨てられる運命となったのは。

しかし、あれからもう4000億年の時が過ぎ、その報いがついに終わるときがきたのだ!」

とまぁ、そんなわけで、あまり死に方がよくなかったとしても遂には真の悟りを得られることもあるのじゃ。


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