足利直義:和尚は「完全な本分の田地が全ての人に漏れなく備わっている」などとおっしゃいますが、私はいまだかつてそんなものを見たことがありません。
本分の田地とはいったいどこにあるのでしょうか?
身体の中でしょうか? 心のなかでしょうか?
あるいはこの心身こそが本分の田地なのでしょうか?
それとも心身を離れたところにあるのでしょうか?
夢窓国師:ワシの先輩はかつて言ったよ。「それはどこにも行かないで、常にここにある。ただ、探して見つかるようなものではないのだ」、とな。
本分の田地は心身の内にも外にもない。
心身そのものが本分の田地だというわけでもない。
生物、非生物の区別もない。
仏や賢人の智慧というわけでもない。
ただ、仏や賢人の智慧、あらゆる人々の心身からこの世界をかたち造る全ての存在に至るまで、そこから発生していないものはない。
そんなわけなので、それを仮に「本分の田地」と名付けたまでのことなのじゃ。
金剛経には「究極の悟りを得た人たちが得たものは、全てここから発生している」と書かれておる。
金剛経の「金剛」とは「金剛般若」の略じゃ。
そしてこの「金剛般若」とは「本分の田地」のことじゃ。
円覚経には「究極の真実、菩提や涅槃、全ての悟りの智慧は円覚から発生している」と書かれておる。
そしてこの「円覚」とは「本分の田地」のことじゃ。
蓮華三昧経には「金剛界曼荼羅に描かれている三十七の仏たちはみな心城に住んでいる」と書かれておる。
そしてこの「心城」とは「本分の田地」のことじゃ。
密教で説かれるところの大日如来・金剛薩埵らもまた、この心城に住んでいるとされておる。
つまり本分の田地こそが、究極の真実や一切の仏・菩薩たちの拠って立つところなのじゃ。
我ら人間をはじめとした世界中の事物もまた同様であることは言うまでもなかろう。
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