別訳【夢中問答集】第七十六問 禅宗とそれ以外の宗派の主張の違いは何? 3/4話

かつてワシは出張のついでに同僚の坊主を七、八人連れて富士山の麓にある西湖に観光に行ったことがある。

そこはまさに神仙境というべきところで、見るもの全てが面白く、素晴らしかった。

地元の漁師に舟を出してもらって入り江を巡ったのじゃが、いやもう、実に素晴らしい景勝の地じゃった。

景色が変わるたびにワシらは舟のへりを叩いて口々に「おおー!」とか言って喜んでおったのじゃが、それを見ていた漁師がこう言った。

「ワシはこの地で生まれ育ち、毎日この景色を見て暮らしてきたが、たいして面白いとも素晴らしいとも思ったことはない。アンタたち、いったいこの景色の何がそんなに面白いのかね?」

ワシらが「いやいや、この山の見え方や湖のたたずまいの素晴らしさに感動しているのです」と答えると、漁師はいよいよ怪訝な顔をして「ということは、まさかとは思うが、こんなものを見るためにアンタたちはわざわざやってきたのか?」と言った。

ワシはそれを聞いて、同僚の坊主たちに言ったよ。

「さて、この漁師さんにワシらの感動をどうやって伝えたものだろうかね? 感動したポイントを逐一説明してみたところで『いや、だからそれは生まれてからずっと見てきたものだから今さら感動もなにもないよ』と言われてしまう。だからといって『この素晴らしさはオマエにはわからないだろうね』などと言おうものなら、「さてはコイツら、他にもっと素晴らしいところがあることをワシに隠しておるな?」などと誤解されてしまう」、とな。


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