本当にもののわかった高徳の師匠にとって、「お釈迦様自身の考え」を説くにあたって一番大切なのは宗派の区別ではなく、受け手のレベルや性格に合った手法をとることじゃ。
だから禅の大師匠が説いたからといって、その本意は必ずしも禅宗に特有のものではない。
しかしながら、説き方の角度や深さは実に多種多様にわたる。
なぜか?
これらは全て「召使いへの指示」に他ならないからじゃ。
近頃の頭の固い連中は、多様な仏説の是非を分類することに血道をあげるあまりにその本当の意味を見失ってしまっておる。
像法決疑経に「ものごとを文面通りにしか受け取れない人は現在・過去・未来の全ての仏の敵である」と書かれておるのはまさしくこのことじゃ。
実力のある師匠には、予め用意された教導手法などというものはない。
あらゆるケースにおいて、その場にもっともふさわしいタイミングで、最も効果的な手法を用いるのみ。
よく「禅は予定調和を嫌う」と言うのは、そういうことじゃ。
禅に関する質問に対し、孔子や孟子、あるいは老子や荘子の言葉を借りて答えることがある。また、禅宗以外の宗派の理論を持ち込むこともある。
世俗的なことわざを使って回答することもある。
無言で手近なものを指さして答えることもある。
ある時は棒で殴りかかったり、頭ごなしに一喝を加えたり、指を一本立てて見せたり、拳を突き上げたりもする。
これらの全ては、ボンクラどもの目を覚まさせるための活き活きとした達人技なのじゃ。
まだこの境地に達していないヤツが批判できるようなものではない。

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