足利直義:そういうことなのであれば、「念仏はアホ向けの方便」などと悪口を言わないで、放っておいてあげるべきなのではないでしょうか?
夢窓国師:いや、だからワシは別に念仏の悪口を言っておるのではないよ。
本当に物事のわかった人が「やってムダになる修行などひとつもないのだ」という信念のもとで念仏を唱えたり呪文を唱えたりするのは、ワシはアリじゃと思っとる。
そこら辺のアホどもが「念仏を唱えることだけが真の修行で、それ以外は全部邪道!」などと言っておるのであれば、「それは違うよ」と指摘したいだけじゃ。
もし禅宗の人間が「座禅こそが真の修行で、それ以外は全部邪道!」などと言っておるのであれば、ワシは同じように「それは違う」と言うよ。
ただ、いくつものことを並行して進めることが苦手な修行者が「まずは座禅からだ!」ということで座禅ばかりしておるのはアリじゃ。
浄土宗の創始者たちが「念仏さえ唱えておればよい」的なことを言ったのは、それ以上のことができない者があまりにも多かったからじゃ。
「他の修行法はダメ」などとは決して言っておらん。
かつて念仏を唱える宗派のことを悪く言った師匠は確かにおるが、彼はそういう芸風だったのであって、念仏以外の宗派に対しても同じ態度を取っておる。
ちなみにその師匠は、仮に悪魔や外道たちから議論をふっかけられたらどうするかと問われて、「彼らの説にも一理はある。ただ、そいつらにそれを言ってもつけあがるだけだろうから、まずはコテンパンに鼻っ柱を叩き折ってやるのだ」と答えたとか。
円覚経には「菩薩と外道がそれぞれに得るところの悟りは、どちらも間違いではない」と書かれておる。
不軽菩薩は世の中の人すべて、悪魔・外道、悪人・善人の区別なく全員に対して礼拝し、私は貴方たちのことを深く尊敬し、一切軽んじることはありません。なぜなら貴方たちは皆、等しく菩薩道を歩んでいるのですから」、と言ったそうじゃ。
立派な師匠・学者というものは、皆一度はこの境地に到り、その上で方便としてあれは「いい」とか「悪い」とかを言うものじゃ。
もしも単に個人的に気に食わないからとかの理由で是非を論じているのであれば、そいつはもう仏弟子でもなんでもない。
真理とはまるでかけ離れたヤツじゃ!

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