ある資産家の末路(出典:雑阿含経)

ブッダことゴータマ・シッダルタ(以下、ゴ):
「やぁ、どうしたんだい、シケたツラしやがって! このところの暑さに脳ミソまで干上がっちまったのかい?」

コーサラ国のパセーナディ(波斯匿)王(以下、パ):
「・・・ご挨拶だなぁ、そんなんじゃないよ。ちょっと考えごとをしていただけだよ。」

ゴ:「へっ、ガラでもねぇ! 話してみなよ、聞いてやるから。」

パ:「いや、先日、町でも有数の資産家がお亡くなりになったというのは、おまえも知っているだろう?
オレはその遺産整理業務に立ち会ったわけなんだが、なにしろ膨大な資産でな、数百億はあったんじゃないかな、それこそ小さな国ならいくつか現金で買えるほどはあったんだよ。
で、誰が相続人になるかと思って調べたところ、なんとその人は、家族がなかったんだ。
ほかに縁故のものがいないかどうか探してもみたのだが、なんと、だれも見つからなかった。
で、相続人不存在ということで、規定に従って国庫に入れた。
実はこの人、孤独死でな、長いこと姿を見かけないのを不審に思った近所の人に、既にミイラ化した状態で発見されたというわけだ。
発見時の実況見分調書によれば、食卓の上には食べかけの食事が置いてあったらしいのだが、これだけの大金持ちだったにもかかわらず、お椀の中身はほとんど米の入っていない薄い粥にヌカを混ぜたものがわずかばかりだったそうだ。
着ていたものも、およそ金持ちとは思われない粗末なもので、ボロギレを数枚縫い合わせただけのものだったとか。
この人の人生って、いったい何だったんだろうか、とか考え始めたら、なんだかやり切れなくてな・・・」

ゴ:「で、このクソ暑いのにカビ臭いツラをぶら下げていたっていうわけか。(苦笑)
世の中にはたまに、そういった「守銭奴」の類がいる。
奴らは皆、「財産」とは決して使ってはいけないものだと思っている。
で、誰にも与えず、使わず、自分でそれを使って楽しむことすらせずに、貯めるだけ貯め込んだ挙句、寿命が尽きて死んじまう。
後生大事にしていた財産だが、あの世にまで持っていけるワケもねぇ。
泥棒に盗まれ、火事で焼かれ、水に流されて無くなっちまう危険に晒され続け、なんとか逃れたところで結局は役人に没収されちまう。
なんとも勿体ねぇ話だぜ・・・
どうせ自分のものにならないのなら、なぜ自分のため、みんなのために使おうとしないかな。
もし、財産が正しく使われたなら、それによって皆の「感謝の気持ち」が得られるだろう。
そしてそれは決して盗まれたり燃えたり流されたり役人に没収されたりすることもなく、あの世まで持っていくことができるというのに。」

<ある資産家の末路 完>


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