ご先祖さまとのコールとレスポンス 2

中学1年生の時、実家で行なわれた「仏降ろし」の儀式。親戚一同が仏間に集まり、じっとご先祖さまの声を待つ。

「この中に、夫婦仲の良くない者がいる。もっと和合して、うまくやってくれないと、(自分は)心配で、穏やかな場所に行けない。頼むから、喧嘩せずに仲良くしてくれ」

何人かのおじさんおばさんが、ビクッとなりました。思い当たることがあったのでしょう。その声によれば、子孫の行ないがあの世での自分の状況に影響するため、この世の子孫たちが笑顔で仲良く健康で暮らしてくれることが一番だというのです。今もそれなりに穏やかでいい処に居るけれど、もっとゆっくりできる極楽があるので、そこへ移るためにも、子孫には更に仲良くして暮らして欲しいとのこと。僕たちは、20分間もその声に耳を傾けていました。時に頷き、時に笑いながら。

中学生の僕には、もちろんご先祖さまは見えません。でも、集まった子孫たちがじっとその声を聴き、それに反応する場に居合わせたことで、僕の世界観は変わりました。今は宗教人類学という分野で研究をしていますが、その時にはそうした分野のこともよく分かりませんでした。でも、「この世とは違うもうひとつ別の世界、別の次元がある」と信じる社会・文化をいろいろ知りたい、と思うきっかけになりました。その声は「生きでるどぎには」と言っていたけれど、今は「どんな時間を生きているのか」、「今いる処って、どんなところなのか」、「どうして子孫が仲良くすれば、ご先祖さまが楽になるのか」などなど、次々と疑問が出てきます。

この「仏降ろし」の儀礼は、人類史の古い時代からみられる宗教現象、我々専門家が「シャーマニズム」と呼んでいるものの一つです。人間や動植物、自然の全ての存在に精霊(スピリット)が宿り、その精霊と人間とが交流できるとする観念が、シャーマニズムの基盤となっています。ご先祖さまとのやりとり、つまりコール&レスポンスは、このシャーマニズムという宗教現象のひとつだと考えることができるのです。

「世界はコールとレスポンスで出来ている」。僕はそう考えていますが、この観点はいろいろと広がりを持っています。このお部屋では、こんなお話をいろいろとしていきます。どうぞお楽しみに。

コール & レスポンス!