やまびこ号といえば、東北新幹線(東京—盛岡間)の列車名として有名だ。こだま号は、東海道・山陽新幹線の列車名。やまびことは、山に棲む妖怪のことだというのを、皆さんはご存知だろうか。やまびこは「山彦」であり、山や谷あいに声をかけると声を返してくる。こだまは「木霊」のことであり、源氏物語の時代から樹木の精霊はこだまと称されてきた。
先日、僕が初めてやまびこと出会った処へ40年ぶりに行ってきた。
小学校1、2年生の頃のこと、僕は山道を歩いていた。学校行事の遠足か、家族でのピクニックかは忘れたが、足下に川が流れている山道をゆっくり進んでいた。
ふと何気なく、「あーっ!」と大声を出すと、「〜あーっ」と声が返ってきた。それが何とも面白くて、何度も「あーっ!」、「こらっ!」など、返してほしい言葉を叫んだ。
声が聞こえるのにその姿は見えない。不思議だなあと思いながらも、やまびこは、怖いというよりは愉快な存在だった。
後日すぐに、百科事典で「やまびこ」の科学的な説明を確認した。「反響」と言うのか……。ひとつ賢くなりはしたが、やまびこの存在は自分の中から消えはしなかった。あの時に「〜あーっ」と返ってきた声は、確かに山からのものだったからだ。
これを、自然相手の“コール&レスポンス原体験”と言うこともできる。それをもう一度確かめたくて、この秋に下北半島へ行ったのだ。
紅葉の季節、空気も澄み、天気も上々だった。このあたりだったかなという場所に立ち、声をあげてみた。「あーっ!」。
しかし自分の声は響き渡るものの、何も返ってこない。何度か試みたが、やまびこもこだまも返事をしてくれなかった。
午後早い時間だったが冷たい風が吹いており、そのため僕の声が風に流れ、やまびこたちに届かなかったのかもしれない。あるいは、こだまもやまびこも、お出かけ中だったのかもしれない。そう思いなおし、東京へ戻るために八戸まで出て夕刻の新幹線に乗った。
ホームに到着した列車の名前は、「はやぶさ」。
東北新幹線も東海道・山陽新幹線も便利な特別列車が増え、自分はこのところ「やまびこ」や「こだま」に乗る機会が無くなっている。やまびこもこだまも妖怪の名だが、利用することが少なくなり関わりも薄くなれば、そりゃあコール&レスポンスもしなくなるよなと、勝手に合点した次第。
深まる秋、皆さんも初めてやまびこ・こだま体験をした場所へ出かけてみませんか。
コール&レスポンス!