美味に毒なし

このお話は、ホテル暴風雨の庭園に生えてきた新種の植物のお話です。
絵とお話「伝説の羊の木」
マンガ「何が見えますか?」
絵とお話「はじめまして、お名前は?」
絵とお話「大きな大きな莢」
マンガ「メエサクさんと豆」
絵とお話「思い出のヒツジガリ」
絵とお話「あなたの色に染まる豆」
を先にお読みになると、よりお楽しみいただけます。では、はじまり、はじまり〜!

みなさまこんにちは。

ホテル暴風雨総料理長、ジュロウです。

今、時代は豆ですよ、豆。

こんな巨大な豆、見たことがありません。新種ですから食べられるかどうかもわからないのですが、もちろん私は試してみました。何を隠そう、「美味しいものならば当たらない」体質ですので。ちなみに、匂いを嗅いで確信した通り、そら豆に似てかなり美味でした。

調査の結果、既知の毒も未知の成分も検出されず、食用可能との結論に達しつつありますが、「検出されないからこその未知の成分」だってまだまだ自然界にはたくさんありますからね。しかも当ホテルの場合、お客様も多種多様。誰かにとって美味しいものが誰かにとって毒であることもよくあります。慎重を期してまだ誰も食べていないのです、私以外。ということは、独り占めの食べ放題ということですね。

前回は焼いて食べてみたのですが、今度は蒸してみようかと。香りや旨味のあるソースと好相性と思われるので何がいいか考え中です。マンドラゴラやベニテングタケでしょうか。こんな食材が使えるのも、独り占めの食べ放題だからこそ。わくわくしますなあ。

毒といえば、師匠のシェフ・シムシムにも「店で出せない料理の研究をしている暇があったら他にすることがあるだろう」とよく叱られたものです。

それにしても、毒に当たるというのは、大変なことなのでしょうね。私も不味いものを食べて数日間ひどいダメージを受けたことは何度かありますので、少しはその大変さがわかります。

世の中には、人間のみなさまが実態をまだよくご存じない長命な生き物というものがいます。当ホテルスタッフにもチヨさんやクラーラさんという三千歳超の先達もいれば、ウオーさん、サオーさんやユメコさんなど、私よりは若いですがけっこうな長老もいます。長生きの秘訣は何と言っても「退屈しないこと」に尽きると思うのですが、退屈しないということは、新しいことをどんどんすることでもあります。それが「食」の方向を向けば新しいものを調理したり食べてみるということになり、未知のものが体に危険か安全かはわかりませんから、ここで体質的に毒に弱いと逆に長生きができないというジレンマが生じます。そこへ行くと私など、「美味しければ当たらない」という体質に随分助けられております。無論、今後何が起こるかは不明なものの、見た目と匂いと手触りが良ければ、とりあえず試してみる好奇心には勝てないことでしょう。

一体、「美味しいと感じるものには当たらない」体質なのか、「自分の体に安全なものを味覚で感じ取れる」体質なのか、どちらなのでしょう。

人間界では、「気の赴くままに好きなものばかり食べていると健康を害する」とおっしゃる方もあるようですが、どうなのでしょう。私としては、美食を極めれば、というのは決して高級珍味ばかり食べるという意味ではなく、入手のしやすさや調理の手軽さなどは度外視して本当に食べたいものばかりを食べていれば健康で長生きできる気がしてならないのですが、そう感じることこそが恵まれた体質のゆえんかもしれませんね。

さてこの豆、旨味の強いベニテングタケを添え、マンドラゴラかケシの実、ニオイスミレあたりで香りと刺激を加えてみようかと思います。いずれも人間界の研究によれば「毒」認定された食材ゆえ、くれぐれも人間のみなさまにおかれましては、真似をなさらないようお願いいたしますよ。ジュロウでした。


ホテル暴風雨ではみなさまからのお便りをお待ちしております!

「ホテル暴風雨の日々」続きをお楽しみに!暴風雨ロゴ黒*背景白


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