絵本塾出版 尾下千秋社長インタビュー第2回

尾下千秋社長が約40年間在籍した図書館流通センター(TRC)は時代の流れにも乗り、数名の会社から今では従業員7000名の図書館総合支援企業に成長しました。それをトップとしてリードしたのはカリスマ経営者石井昭さんです。「石井さんと会わなかったら今のぼくはない」そう語る尾下社長に石井昭さんとのことをうかがいました。


人まねではなく、自分のやり方でやる。
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2000年4月、創業者の石井昭会長の指名を受ける形でTRCの社長に就任されました。

「TRCが成長した理由の一つが物流システム。そこも評価されたと思います。
ぼくはアイデアがどんどん出てくるタイプで、石井さんに随分提案をしました。石井さんはいつも『わかった。やれ』と言ってくれました。止められたのは一つもないくらいでした。これからはもっとアイデアを生かしていけ、という意図もあったんじゃないでしょうか。

でも時代の流れというのがあるんですね。
バブルが弾けて経済が長い停滞期に入ると、出版業界も低迷します。自治体の財政は厳しくなり、図書館の購入予算は減りますから、物流は当然細ってくるわけです。
一方、小泉首相の規制緩和で民間が図書館業務を請け負えるようになったため、TRCはここに積極的に参入しました。
会社全体の中で受託業務の比重が高まってくると、ぼくのような物流の専門家より、図書館現場を知っている人が中心になっていくのは、自然な流れだったと思います」

石井昭さんは大変カリスマ性ある経営者だとうかがっていますが?

「石井さん、めちゃくちゃすごい経営者ですよ。
たとえば、世の中にはつぎつぎ新しい言葉が出てくるじゃないですか。聞き慣れないカタカナ語とか。そういうのすぐにマスターして使うんですね。ぼくが10回でやっと覚えるところをすぐに使う。どっか違うんだよねえ。

石井さんの一番すごいところは、信じたら任せるってこと。
大きな仕事でも、石井さんは指示したらあとは任せて、じっと結果を待っているんですね。
ぼくはすぐに現場に飛んで行っちゃう営業タイプ。だって、たとえば十億の仕事があるとすれば、部下だけ行かせるの恐い。部下だけ行かせて取れなかったら、とつい考えてしまう。だから同行して一緒に頑張る方です。

やっぱり石井さんは器の大きな経営者です。
石井さんに言われたことがあるんです。
『尾下くん、オレのやり方マネしても経営はダメだよ』
そうなんだよね。石井さんは創業者だし相当なカリスマ性がある。
ぼくは創業者ではないし、カリスマ性なんてない。現場での創意工夫が得意なタイプですから、持って生まれたものが全然違うわけです。
それでも社長になるとつい間違える。石井さんを見ているからあのやり方がいいと思ってしまう。でもカリスマ性をまねることはできません。だから自分のやり方でやれと言ってくれたんですね。

石井さんがいなかったら今のぼくはないですね。任せてもらったからいろいろできた。
石井さんは、人を見る目、時代を見る目、任せる度量、みんな抜群。なかなか日本にはいない大きな器の経営者だと思います」

たまたま新聞で見た小さな求人広告が、尾下社長が石井昭さんと出会うきっかけでした。それから50年。人のご縁は不思議ですね。
16日(月)更新の第3回は、いよいよ絵本塾出版のこと、そしてなぜ自ら絵本を書き始めたのかをお聞きします。どうぞお楽しみに!

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※尾下社長は「ビーゲンセン」の筆名で絵本作家としても活躍されています。最新作は「葉っぱのいのち」。


尾下千秋(おしたちあき)
岐阜県生まれ。永年図書館用の物流構築に携わった。在任中、子会社の出版部門を担当。その一方で、絵本用の物語を書き始め、「にじになったさかな」「ヨウカイとむらまつり」「どうぶつのおんがえし」「パパにあいたい」などを出版した。
子供たちにも受け入れられると感じ、退職して出版社を立ち上げて現在に至る。以降の作品に
「なんのいろ/なんのおと/なんのかたち/なんのにおい/みつけよう」の五感シリーズなどがある。絵本作家としての名はビーゲンセン。一般向けの著作に「変わる出版流通と図書館」がある。