尾下千秋社長インタビュー第4回です。2009年に設立、今年9年目を迎える絵本塾出版。出版が大変厳しいと言われる時代に、あえて船出した尾下社長に、ここまでの実感とこれからの戦略をうかがいます。
他がやらないことをやる。そこが生きる道。
「絵本塾出版を始めて何が大変だったかというと、小さい会社ということではなく、無名の出版社であることでした。
TRC(図書館流通センター)は図書館業界では知らない人がいない会社ですが、スタートしたばかりの絵本塾出版は逆に、出版界や読者で知っている人がいない会社です。読者も知らない、書店も知らない、作家も知らない、知らないだらけでした。
だから、まず社員に言ったのは『名前を知ってもらおう』ということです。
読者から愛読者カードがきたら、必ず手書きで返事を出します。8年前の創業からそうしていて、少しずつ増えてきた今も、これからも続けていきます。ファンを一人一人作っていこうということです。
いま絵本作家を目指す人が多いので、小さな絵本塾出版にも相当な持込み原稿があります。これもぜんぶ目を通して感想を伝えています。なにぶん数が多いから時間はかかってしまうのですが」
絵本塾出版からデビューした作家さんも多いですね。新人を育てるのは出版社として最も重要な仕事だと思います。
「最も大変な仕事でもありますけどね。いま大手が、それを余りやろうとしないんですよ。じゃあ、うちでやろうかと思ったんです。
それだけではなく、他がやらないことをやろうというのはすごくあります。だって絵本塾出版が小学館や講談社のマネしたって誰も注目しないでしょ?
絵本塾出版らしさを出していく。そこが生きる道だと考えています。
作家として目指すところと、出版社として出したいものは基本的に一致していて、ぼくなりの尺度があります。ただ面白いだけでは出さない。
根底にあるのは、子どもたちに人間の生き様を少しでもわかってほしいということです。
風木さんの『ニワトリぐんだん』もエンターテイメントだけどそれだけじゃないでしょ? 深いテーマがある。こういうのこそ絵本塾出版の出版すべき本だと思っています」
ありがとうございます!
「いやいやこちらこそ。8年経ったいま書店の人に『絵本塾出版は変わった本を出すね』と言われるようになりました。これは誉めことばだと受け取っています。
10年を一つの節目と考えてきたから、あと2年でどこまでいけるか、がんばります。実現したいアイデアは山ほどあるんですよ。
また10年後来てくれたらもっと面白い話ができるんじゃないかな」
30日(月)更新の次回が尾下社長インタビュー最終回となります。子どものころの話、座右の銘などお聞きします。どうぞお楽しみに!
尾下千秋(おしたちあき)
岐阜県生まれ。永年図書館用の物流構築に携わった。在任中、子会社の出版部門を担当。その一方で、絵本用の物語を書き始め、「にじになったさかな」「ヨウカイとむらまつり」「どうぶつのおんがえし」「パパにあいたい」などを出版した。
子供たちにも受け入れられると感じ、退職して出版社を立ち上げて現在に至る。以降の作品に
「なんのいろ/なんのおと/なんのかたち/なんのにおい/みつけよう」の五感シリーズなどがある。絵本作家としての名はビーゲンセン。一般向けの著作に「変わる出版流通と図書館」がある。