岩崎書店 岩崎弘明社長第4回

ファーストラウンジからお届けする7月の社長インタビュー、いよいよ最終回となりました。岩崎弘明社長に、気になる「これからの出版」についてうかがいます。


出版は文化、本は喜び
岩崎書店 岩崎弘明社長

岩崎弘明社長

出版は斜陽産業と言われていますが、今後にどんな展望をお持ちでしょうか?

「世界を見渡すとですね、先進国でこれほど本が売れなくなったのは日本だけなんです。つまり何か日本特有の理由があると考えなければいけない。
皆さん、再販制度が悪いとか取次が悪いとか言うんだけれど、私は福沢諭吉の『学問のすすめ』が悪いって言ってるんです。慶応は私の母校だし、岩崎書店でも『学問のすすめ』を出版したことがあるんですが(笑)。

福沢はあの中で「実用書を読め」って書いてるんですね。文学書を読めとはひとつも書いてない。福沢諭吉自身は大変な教養人だったけれど、今は教養などよりも実学、西洋に追いつくために実際に役に立つ本を読めと述べている。
『学問のすすめ』はキャッチアップが至上命題だった時代の本です。しかしそれが今に至るまで日本人の「本観」を決めてしまった。読書をお勉強にしてしまった。

日本人が本を読まないって話をすると、アメリカ人の友人は不思議がります。「だって読書はホビーでしょ、あんな面白いものやめられない」って、かなりの人が言います。つまり彼らは読書をまず趣味、楽しみだと思っている。勉強ではなく。
日本でもそうしたいですね。「本は喜び」を広めたい。そうすれば出版不況なんて吹き飛びますよ。

日本を文化国家にという話ともつながるんですが、私は岩崎書店に来てから版権の輸出にも力を注いできました。日本のすぐれた作品を海外に紹介していくのは、ビジネスとしてだけでなく、国際理解のためにも重要です。
中国、韓国、台湾ではとても多くの日本作品が翻訳出版されるようになりました。これからは、タイ、インドネシア、マレーシアなど東南アジアに広げていきたい。
その先には欧米もあるけれど、こちらはまだ時間がかかると思っています。

私もいい歳になりましたが、出版関係の団体役員を引き受けてしまったこともあり、あと2年はがんばります。
その後は子どもや孫のいるアメリカに帰って、大自然に触れて暮らしたいですね」

最後に恒例の質問です。好きなホテルを教えてください。

ポルトフィーノ ホテル & マリーナ
ロスアンゼルスの空港から車で30分かからない、寒流が流れる穏やかな太平洋に面した古いホテルです。米国日産にいたとき日本から偉い人が来たらここに泊まってもらいました。
いま私は子どもたち孫たちと会うために年に二度ロスに帰るんですが、いつもここに泊まります。40年経ってもあまり変わらないのがいいですね」

岩崎弘明社長 お孫さんたちと

お孫さんたちとくつろぐ岩崎社長

岩崎弘明社長

お孫さんたちに囲まれて

岩崎社長、長時間ありがとうございました!


岩崎弘明(いわさきひろあき)
1940年神奈川県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。
父岩崎徹太は岩崎書店創業者、母治子は同社編集長。しかし読書少年ではなく野球少年として成長する。若き日から広い世界に憧れをいだき、初め日産自動車駐在員として、のち永住移民者としてアメリカ暮しを実現する。1993年帰国し、1995年岩崎書店代表取締役社長に就任。現在会長と社長を兼任する。(本インタビューでは社長と表記させていただきます)
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