トライトーン 成冨ミヲリ社長インタビュー第5回

成冨ミヲリ社長インタビュー、最終回となる今日は「会社とは何か」「クリエイティブな仕事とは何か」という根源的なテーマに触れます。言葉の端々から成冨社長独自の哲学を感じていただければ幸いです。


迷惑かけあえる仲間を持つ

「会社を作った理由の一つは、自分が女性であるからです。人生の中で仕事だけに集中できない時期が必ずあるだろうと。すると一人では無理だから、何人か集まって忙しいとき助けあえたらと考えたんです。
誰にも迷惑かけないで生きていくことはできない。だったら迷惑かけあえる仲間を作ろう。
私にとって会社はそういう場でもあるんです。

トライトーン 成冨ミヲリ社長 アトリエで

成冨ミヲリ社長 アトリエで

新しい人を採用するときは、一生つきあえるかということを考えます。その人の人生の一部に責任を持つ覚悟ができなければ雇いません。
おかげさまで定着率はとてもいいです。やめて他社に行く人はほとんどいない。
独立する人はいるけれど、これはいいんですよ。社員でなくなっても、仕事を頼んだりするし、外部スタッフのようなものです。人間としてのつきあいは続いているわけです」

続く人を採用する秘訣のようなものはあるんですか?

「秘訣かどうかわかりませんが、ちょっと面白いやり方はしています。私が決めるんじゃなくて、入る人に決めてもらうんです。
面接して、入れてもいいんじゃないかというとき、来てくださいとは言わないんです。
1週間くらいしたら電話して「来ますか?」って訊くんです。
即答する人と言いよどむ人がいます。言いよどむ人は他と迷っています。即答する人はぜひうちに入りたいと思ってくれている。そういう人を入れます。そういう人は間違いないです。

中小なんで、一人デザイナーが変わるだけで会社が変わるんですよ。一人ひとりがとても大事。バラエティに富んだチームを心がけています。年齢も性格も自分と違う、今のメンバーと違うタイプを優先します」

採用は経験者中心ですか?

「いえ、未経験者も取りますよ。仕事を覚えて独り立ちするまで最低2年はかかります。そのくらいのスパンでは見ています。

即戦力を求めすぎる会社は社員が定着しません。社員の方も、そこで得られるものを得たらやめようと思うからです。
ほどよく育ったところでやめられてしまう会社と、育った人材が入る会社とあって、前者になってはいけませんよね。
どっち側になるか。地味ですが大事なのは働きやすさです。中小が大企業と同じ仕組みでやっていたら負けます。規模だけの勝負になるから。

うちはデザイン会社としては珍しく、基本残業なし、土日はしっかり休みです。
締切前とか例外はありますけど、ふつう16時には業務を終える。子育て中の社員も無理なく働けるように、16時が時短ではなく定時になるように試行錯誤している最中です。

早く帰れるようにしているのには、もう一つ大事な理由があります。
クリエイティブな仕事は余裕が必要なんです。いっぱいいっぱいに働くとだんだん時代に遅れ、センスが鈍ってくる。充電ができないからです。
忙しいときは助けあって、余裕の時間を持ち、平日仕事のあとに映画観たりお芝居観たり、インプットしてほしい。
そうしてセンスを磨いておけば、短時間でも効率の高い仕事ができる。私はそう考えています」

トライトーン成冨ミヲリ社長

いわき湯本温泉の冊子制作中。「27インチの液晶タブレットで直接パーツを描き込み、デザインをしていきます」

トライトーン成冨ミヲリ社長 猫

ポスター等のビジュアル制作では、撮影小道具の制作も行う。「猫がよく邪魔しに来ます」

最後にお好きなホテルを教えてください。

「次の旅で泊まるホテル。
旅が大好きで年に何回か国内外に旅に出ます。しばらく旅に出ていないと、毎晩ホテルを探す夢を見続けます。アジアの薄暗く古ぼけた宿から、海の見える高級リゾート、家族経営のゲストハウスと毎日違うホテルを探し続け、夢の中を彷徨っています」

成冨社長、長時間ありがとうございました!


成冨ミヲリ(なりとみみをり)
東京藝術大学美術学部工芸科卒 (染織専攻)。アートディレクター・プランナー・実業家。
ゲーム会社、コンテンツ制作会社を経て、有限会社トライトーンを設立。富士急ハイランドや商業施設の企画デザイン、集英社のCMやドキュメンタリーTV番組におけるCG制作、アニメDVDの監督など幅広く活動。その他、デッサン技法書の執筆、音楽・小説などの制作もしている。「絵はすぐに上手くならない」(彩流社)を2015年に上梓。3万部を超えるヒットとなる。 トライトーン ホームページ